2019-05

4・29(金)東京二期会 モーツァルト:「フィガロの結婚」2日目

   東京文化会館大ホール  2時

 そのデニス・ラッセル・デイヴィス、昨日よりは一部テンポが速くなったところもあるが、やはり基本的に遅いし、パウゼの取り方も長めだ。要するに、演奏全体に生き生きした躍動といったものが感じられないのである。
 劇的緊張を保持したまま次のシーンへ追い込んで行くべきだと思われる個所で――拍手を待つわけでもあるまいが――大きく間を取ってしまうことがあるのも、解せない。
 もっとも彼の指揮には、叙情的な個所では美しいものがある(昔とは逆だ)から、音楽が本来遅いテンポを持っている個所――たとえば第3幕での「伯爵夫人のアリア」などでは、その良さは、生きて来る。

 第2幕での、スザンナとケルビーノとのアレグロ・アッサイの二重唱(第14番)でのオーケストラは、スコアでは確かにピアニシモとなってはいるが、東京文化会館の空間の大きさを考えた場合、果たしてあの音量を遵守するべきかどうか、もう少し弾力的に考えられないものか。1階席後方にいた私のところからは、音楽を知っているから見当はつくものの、実際にはオーケストラ・パートの大半はほとんど聞こえなかった。モーツァルトは、音楽は「聴かせるために」書いたはずではなかったか。

 今日の歌手陣は別キャストで、昨日に比べ、さらに若手が多かったかもしれない。溌剌とした雰囲気は大いに買える。ただし、舞台での人物相互のかみ合いなど、いわゆる「味」といったものが、どうしても希薄になってしまうだろう。主役陣が若いなら、脇役はベテランで固める、といったような配役の妙味ももう少しあったら如何。

 スザンナの嘉目真木子は本当によくやった。舞台姿も映えるし、歌唱も安定しているので、今後が楽しみな存在である。
 ケルビーノ役の下園理恵も熱演。「恋の悩み知る君は」などでのたっぷりした長さの音にはもっと安定を。恋の情感の表現などは、これからか。
 フィガロの山下浩司は既に経験充分の人で、誠実な歌唱は安心して聴けるものの、ただ昨日の久保和範と同様、舞台姿にもう少し明るさと派手さがあるといいのだが・・・・。

 伯爵役の与那城敬は、注目していただけに、出来栄えにはちょっと問題ありか。私はこの人のスター性を高く買っているのだが、惜しいことに、こういう権力者の役を演じた場合、凄味といったものに欠けるのである。今回の、常に冷笑――皮肉な薄笑いを浮かべるだけの演技では、この複雑な役柄をこなすには苦しいだろう。
 第3幕のアリアはしっかりしているし、フィガロを威嚇する「Anch’esso?」の一言などなかなか迫力があったから、演技の方でのさらなる工夫を期待したい。

 伯爵夫人役の増田のり子は、昨夜の澤畑恵美がいかにも「かつての可愛いロジーナ」の雰囲気を残す茶目なイメージの演技だったのに対し、こちらは大人の、もう若くはない人妻の複雑な心理を表現するといった演技で、渋い重みを発揮していた。第3幕のレチタティーヴォとアリアも良かった。

 と、ここまでは、個人的な好み。このあとは、昨日の項に同じ。
       音楽の友6月号 演奏会評

コメント

デニス・ラッセル・デイヴィスの坊主頭に、2002年に観た亜門演出の『フィガロの結婚』を思い出しました。
宮本亜門さんがオペラ初演出だったこともあってか相当話題になって、当時のチケットを見たら、東京文化会館のまさに今回と同じ列の席で聴いていました。
私が観た日は多田羅 迪夫さんの伯爵で、王様と私みたいなスキンヘッドで、オペラ歌手も役作りで髪を剃る時代になったかと驚きましたが、とてもドラマティックで、終幕に向けて、大倉由紀枝さんの伯爵夫人に伯爵が赦しを乞う場面では、感動でおもわずほろりとしたし、フィガロとスザンナも嬉しそうに演じていた記憶があります。
今回は再々演ということで、演技が漫画的というか、コミカルな雰囲気になっていましたが(音楽は妙にゆっくりだったり、急に速かったり、モーツァルトっぽくなかった)、映像が3Dの時代になったのに、オペラを観にいって、ここ数年、逆に平面的に感じることが多いのはなぜなのかと考えていました。
かつて、バルバリーナ、スザンナ、伯爵夫人と年代とともにレパートリーや声を変化させてゆく歌手の成長を楽しみにしていたのが、最近は主役がすぐに入れ替わるのでなかなか覚えられないというのもありますが、声でこの人だ!とすぐわかる歌手が減ってきているのは、演奏が均質化されているのでしょうか。
今回のフィガロが将来は伯爵やバルトロを演じたり、バルバリーナやスザンナがいつか伯爵夫人を歌う日はあるのでしょうかね。
個人的には澤畑さんにはまだスザンナを歌っていてほしいところですが・・。

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初めてコメント投稿させていただきます。私も嘉目さんのスザンナは素晴らしいと思いましたし、与那城さんの伯爵は期待していただけにmちょっと(?)でした。私はアマチュアファンに過ぎませんが、音楽を中心にブログを書いておりまして、4月30日の公演と5月1日の公演の両公演についてそれぞれ詳細に感想を書いておりますので、お読みいただけたら幸いでございます。
今後も東条様の評論に注目していきたいと思います。

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4月29日 二期会「フィガロの結婚」

セカンドキャスト
歌のレベルは皆合格レベル。

アルマヴィーヴァ伯爵の与那城敬、スザンナの嘉目真木子に期待したが彼らのこれまでの参加作品と比べると役作りとしてはやや物足りない。
アルマヴィーヴァにはもっと風格やニュアンスが欲しい。今回の演技は一本調子で物足りない。イタリア語もややぎこちなく始まった印象。
スザンナは配役によっては、あるいは演出によっては「全てを動かしているのはスザンナである」と感じられる強さがあるが、嘉目のスザンナは可愛らしく従順な召使に留まった。過去に蝶々夫人(抜粋)を聴いた時は強さがあったのに。また、パミーナは人形のように可愛い嘉目に本当にハマリ役だったのに。スザンナ役としては表情が寂しすぎる感じもする。第1幕の第一声からしばらくは声が小さ過ぎると心配したが、徐々に解消し、第4幕では魅力的な歌になった。第4幕の出来が最初から出来ていればかなりの好演だったかも知れない(東条さんのブログに投稿している方が5月1日公演の嘉目を絶賛しているのも理解出来るような…)。

ケルビーノの下園理恵は声質が独特。ホーミーのような感じになるところがあった。役作りは宝塚の男役という雰囲気でなかなか特色があった。この役作りは下園の個性と言うより演出家の好みだろう(後で3-4幕だけ見たファーストキャストのケルビーノもほぼ同じ役作りだったので)。「初演時より劇画的な演出になっている」との評価をされている方もあり、なるほどと納得。

伯爵夫人の増田のり子は歌の上手さ云々の前に第2幕で登場した時のヘアスタイルがどうにもこうにも似合わず貧相で伯爵夫人という風格が出なかった(これは彼女の責任ではない)。後半、髪をアップにしたりシルバーのカツラをつけたりした姿はなかなか風格があった。

主要な役の中ではフィガロの山下浩司が一番良いと感じた。

更に今回の公演では周辺の役、マルチェリーナの諸田広美、バルトロの三戸大久、バルバリーナの馬原裕子の良さが印象に残った。特に馬原は良いなぁと思ったら、コンサートソリストとして活躍している様子(東京メトロが企画する招待公演など)。

坂本貴輝はバジリオ役の声質としてはやや変わっている感じがした(うまくない訳ではない)。

セカンドキャストの歌は皆合格レベルだが、期待した与那城、嘉目は役全体として期待値には到達していなかったので(と言うよりミスキャストかなぁと感じたので)、第3幕まではずっと「ファーストキャストを観るべきだったか」と感じながら聴いていた。

今回の上演では第4幕が演出、歌ともに非常に良いと感じた。第4幕では「ミスキャスト」印象も薄れた。この場面ではフィガロ、スザンナ、伯爵夫人が良く、日本人の公演を聴いていることを忘れていた。

ラッセル・デイビス指揮東フィルの演奏
東条さんからは「不合格」の烙印を押されたが、私は数々の公演中止の影響で3月、4月はオペラを聴いておらず、久しぶりのオペラ。「やっぱりオペラっていいよね」と感じて聴いた。「なんともほのぼのと優しい演奏だなあ。まあ、こういうのもありか…」という感じ(厳しい言い方をすれば東条さんのコメントになる?)。歌の後の(拍手を待つかのごとくの)微妙なポーズが多く聴いていてリズムに乗れない感じはあった(拍手を入れずにどんどんドライブして欲しいのに)。

演出・装置
初演時は照明がかなりきつく(常に影が逆立ちして映っていた)、黒い衣装が物々しく、全体におどろおどろしい雰囲気だったが、今回の再々演では和らいでいた。
第3幕から第4幕への転換が面白く、また第4幕の美術は工夫があった。この幕の演出も良かったと思う。「初演時もこんな美術や演出?」とこの部分は全く記憶になかった。

セカンドキャストとファーストキャスト
「今回の公演はファーストキャストの方が良かったのかも知れない。ファーストキャストを聴きたい」と思い、翌日の「シルク・ド・ソレイユ」公演からハシゴ。後半を比較した(時間を間違えて、代々木から上野まで「時間はたっぷりある」とのんびり移動したので第3幕の途中からの鑑賞となってしまった。失敗)。

今回のキャストはオーディションで選ばれたとのことだが、外観の雰囲気が両キャストでほとんど違わず全て双子という感じ(違うのはバルトロのみ。ほっそりバルトロとぽっちゃりバルトロ)。

「ファーストキャストの方が良いかも知れない」の関心で聴いたが、結論として、「歌の実力はほぼ互角、好みとしては全体にセカンドキャスト。結局セカンドキャストを選んで正解」だった。ファーストキャストは男性キャストがやや魅力に乏しい感じ。

02年の「フィガロの結婚」
私が二期会を聴き始めたのはこの「フィガロの結婚」の初演から。「宮本亜門がオペラを演出する」という関心で観た。当時は日本のオペラ団は藤原歌劇団を中心に聴いていたので、初めて聴いた二期会は「意外にうまい。しかし、全体に小さくまとまっている」との印象だった。
あれから年月が流れ、多くの著名外国人演出家に鍛えられ二期会は大きく成長して来たと感じる。最も大きく変身したのはクレーマー演出の「ばらの騎士」以降。その頃から層も厚くなった。二期会はコンヴィチュニー「サロメ」にも耐えられたのだから今後は何でも耐えられるのではないか。更に成長して欲しい。
バレエの世界では今や日本人以上に総合的にうまいバレエ団はないかも知れないと思うレベルにもなっている。オペラでそうなるのは無理だが、かなりのところに到達しているのではないか。

「フィガロの結婚」初演時は、荒削りながら甲斐栄次郎のフィガロが私にとっては魅力的だった。これからこの人の公演を聴こうと思っていたらウィーンに行ってしまって、その後は聴く機会なし。ネトレプコとの共演などのニュースは知っており、新国立劇場の蝶々夫人で聴くのを楽しみにしているところ。

終演後の寄付活動(4月30日は福井敬も参加)
昨今、寄付なしの公演は探すのが難しい。この公演では出演者がすぐにホワイエに回って寄付活動。5月1日はなんと、今回の公演に全く関係ない福井敬大テノールが寄付活動に参加していた(岩手県出身とか)。

「ホワイエでお客さんを見送る」というのはアマチュアや駆け出し歌手の公演では見かけるが、雰囲気としては悪くない。

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