2018-06

7・25(日)PMFのルイジ指揮 プッチーニの「ラ・ボエーム」

   札幌コンサートホールKitara  3時

 PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)の芸術監督に就任したファビオ・ルイジが、早くも得意のオペラの全曲上演(演奏会形式)をPMFのプログラムに取り入れた。
 PMFがオペラをやるのは実に14年ぶりのことで、レパートリーとしても新鮮なイメージを打ち出せたであろう。ルイジの個性を最大限に発揮する意味でも、それ自体は良い企画だと思われる。

 だが――企画は良くても、演奏内容については、大きな問題が残った。

 PMFアカデミー生のオーケストラの水準は、例年と同じように、プロ並みに高い。この公演ではMETオーケストラの練達のコンサート・マスターであるデイヴィッド・チャンがトップに座ってリードしていたこともあって、PMFのオケもなかなか上手くオペラをこなせるものだ――という印象を生んでいたのは、たしかである。

 問題は、歌手陣なのだ。
 今日の歌手たちは、いずれもオーディションで選ばれた日本の若手たちで、――なにしろ公式プログラムにも、当日配布のプログラムにも、歌手についてのプロフィールが全く載っていないものだから、どこでどういう勉強をしていた人なのか、どのくらいオペラにおける経験があるのか、何歳なのか、ということすら全く判らない状態なのだが――とにかく聴いた感じを率直に言えば、ミミを歌った千恵・リー・サダヤマという人だけがよく通る声で清楚な歌唱を聴かせていたものの、その他の人々は、まだ「本当のアカデミー生」の水準だ(ただし、赤ん坊にしては歯が非常に強い、という比喩はできよう)。
 特にロドルフォ役の青年は、2階正面で聴いていてさえも、オーケストラの強奏の際には声がほとんど聞こえなかったほどである。

 教育音楽祭の演奏会なのだから、これでもいいのだ、という考え方もあろう。若い歌手の卵がよく頑張っている(本当に一所懸命やっていた)のだから、静かに見守ってやればいいじゃないか、という考え方もあろう。いずれも一理ある。

 だが気になるのは、オーケストラと歌手の実力のギャップがあまりにも大きいということ。
 ふだん、声楽部門にほとんど力を入れていなかったPMFである。いきなりオペラをやるからと言ってオーディションを行なっても、そうそう水準の高い歌手が集まるというわけには行かなかったであろう。
 ただ、それは仕方ないとしても、20年にわたりレベルの高さを誇って来たPMFにおいて、これだけギャップのある演奏家たちを同じステージに乗せてオペラ・コンサートを行なうことはいかがなものか、という疑問は残る。
 PMFというブランドを信頼して世界から集まって来た優秀なオーケストラのメンバーが、折角参加してもこういう演奏会をやらされるのでは――と、やる気を失うなどということにならなければよいのだが。

 事実、前日の異なるキャストによる演奏会を聴いたある新聞記者が、前日は主役にプロ級の歌手が配置されていたのでルイジもオーケストラもすばらしい演奏をしていたが、今日は歌手をカバーしようとするためか、PMFオーケストラは明らかに散漫な演奏に陥っていた――と語っていた。としたら、これは由々しき問題ではないのか。

 PMFは、たしかに教育音楽祭ではあるけれども、ある一定の水準以上のアカデミー生を対象とし、その高い水準を以て興行音楽祭としての性格をも備えるという使命を持つだろう。今日の演奏は、その基本的立場に大きな問題を投げかけるものであった。

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私も東条さんと同じ2階センターで聴きました。第1キャストはリハーサルで聴きましたが、第2キャストより良い出来でした。若い歌手たちは、演奏会形式の中でも、何とか演技をしてオペラにしようとしていましたが、第2キャストのマルチェルロだけは、譜面台から目を離せず、手をたまに上げるだけで、ほとんどは腕組みだったのは残念です。私はミミよりまだムゼッタが聴かせてくれたように思いました。
今回歌手陣が非力だったことには、オーディションの失敗があったと思います。聞く所によると、四十数名の参加者の中からダブルキャストを選ぶ予定が、ミミ、ロドルフォは1組、ムゼッタとマルチェルロは2組選べましたが、、コッリーネとショナールはシングルだけ、アルチンドロとパルピニョールは該当者なし、そしてミミ、ロドルフォの1組は外部招聘という結果は、残念でした。
PMFですから、一流の歌手でなくても、将来を期待できる若い歌声が集い、彼らがきっかけをつかめる舞台であったら素晴らしい音楽祭になるでしょう。
今回アカデミー生の数も絞ったようですが、PMFで歌う歌手たちも、世界各地で一緒にオーディションを行い、才能ある若者を発掘して、またオペラをやって欲しいと思います。

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