2018-09

7・9(金)旅行日記第3日 エクサン・プロヴァンス音楽祭
大野&ルパージュのストラヴィンスキー:「狐」「夜鶯」

   エクサン・プロヴァンス大劇場  8時

 ロベール・ルパージュ演出の華麗な、洒落たセンスの「夜鶯」を観て、昨夜の不機嫌も一気に吹き飛んだ感。これで、楽しい印象を持って帰れるだろう。

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       中央:夜鶯(オリガ・ペレチャトコ)
       右下:皇帝の人形とその歌手(イリヤ・バニク)

 何はともあれ、リヨン・オペラのオーケストラを率いて乗り込んだ大野和士が、ストラヴィンスキー・プロを指揮、大きな拍手とブラヴォーを浴びていたことを第一に挙げなくてはならない。オーケストラは――舞台上に配置されていたにもかかわらず――幻想的で華麗な衣装や人形芝居や影絵のため、引き立て役にまわってしまったと言えなくもないが、カーテンコールでの指揮者への拍手が歌手たちへのそれに劣らず大きかったのは、本当にうれしい。

 特にプログラム前半の「狐」など、やや抑制されてはいたが引き締まった演奏であった。4人の男声カルテットを見事にまとめ上げていたのも、当然、大野和士の功績である。「夜鶯」では、オーケストラの前に合唱団が並んだため、オケの音がややくぐもった印象はあったが、オペラとしての音楽全体は見事に構築されていた。これも、大野の手腕の為すところである。
 たった一夜ではあったが、彼のヨーロッパでの活躍の現場を垣間見られたことは幸いであった。

 前半は、珍しい作品ばかり。
 「3つのクラリネット・ソロのための小品」を1曲ずつ狂言回しのように使って、「プリバウトキ」「猫の子守歌」「バルモントの2つの詩」「4つのロシア農民の歌」が演奏された。スヴェトラーナ・シロワとエレーナ・セメノーワら、リヨン・オペラの女声コーラスなどがロシアの民族衣装を着て歌う。これに5人の影絵師たちが手を使って中央のスクリーンに映し出す影絵の、何と巧いこと、美しいこと。
 続いて「狐」が演奏され、エドガラス・モントヴィダスらがとてつもなく表情豊かで見事な男声カルテットを聴かせたが、ここでの動物の影絵は、スクリーンの背後で繰り広げられるダンスによって作られる。これも素晴しく見事だ。

 そして後半には、この日のアントレである「夜鶯(ロッシニョル=ナイチンゲール)」が上演されたわけだが、これがまた、目を奪うばかりの鮮やかな東洋風衣装に満ち溢れたものであった。
 物語は――中国の皇帝(イリヤ・バニク)の宮廷に迎えられた夜鶯(オリガ・ペレチャトコ、好演)は、美しい歌を歌って彼の心を慰めていたが、皇帝が日本の皇帝から贈られた機械仕掛けの鶯の――技術的には完璧に鳴くが心のこもっていない美声(!)に興味を移したのを見て自尊心を傷つけられ、黙って去って行く。だが皇帝は間もなく重病になり、死神に取り付かれた。その時、またあの美しい夜鶯が飛んで来て温かい声で歌い、死神を追い払い、皇帝の命を救う――というもの。

 基本は、人形浄瑠璃のスタイルを取り入れた芝居である。皇帝や漁師、料理番の娘など何人かの歌手たちが、自ら扮装をして人形を操りながら歌うという器用なところを見せていた。

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       日本の皇帝から贈られた機械仕掛けの鶯(中央)に満悦の中国皇帝(右)

 しかもこれらの芝居は、オケ・ピットに当る部分に設置された巨大なプール(水槽)の中で行なわれるのである。プールの中を歌手が歌いながら、人形を乗せた舟を押したりして進む。やる方も大変だろう。黒子も水中からいろいろ操作をする。最前列の客は、一度か二度は、水をひっかけられたのではなかろうか。
 日本からの3人の使節(人形)は舟に乗ってやって来るが、舟を押しながら歌う実物3人がまるで山伏か山賊みたいなメイクと衣装を付けているのは可笑しかった。
 夜鶯は地上で歌うが、その象徴たる小さな鳥は、背後から黒子が操る黒い竿と糸で、空中を軽やかに舞う。

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    水中から現われる死神 プールの中から黒子が手足を操作している
    これはリハーサル中の写真。本番では背後にオーケストラが並ぶ

 45分があっという間に過ぎ去る実に楽しい舞台で、ロベール・ルパージュの演出の洗練された感覚を示すものだろう。もちろんバレエの振付や舞台装置、衣装デザイン担当など、何人ものスタッフの力が結集したものであることは疑うべくもない。

 翌日空港で会った知人から聞いた話だが、これは大野がモネ時代から構想をあたため、リヨン・オペラに移ってから一気に実現させた企画なのだそうである。そうだとすれば、大野のプロデューサーとしての力量が存分に発揮されたことになろう。日本で上演されたなら、観客を沸かせること間違いなしだ。
 このプロダクションには、カナダ・オペラ、リヨン・オペラ、ネーデルランド・オペラなどが共同制作として名を連ねていた。

※写真はエクサン・プロヴァンス音楽祭提供 Copyright Elisabeth Carecchio

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