2020-05

4・4(日)東京・春・音楽祭 ワーグナー:「パルジファル」

   東京文化会館大ホール 3時

 小澤征爾の指揮で高水準のオペラ上演を生み出した「東京のオペラの森」はひとまず昨年で終了したが、そのあとを受けて開始された「東京・春・音楽祭」――その目玉公演の一つがこれだ。
 舞台上演ではなく演奏会形式上演ではあるが、それは決してわるいものではない。なまじ妙な中途半端な迷演出で上演されたりすれば、気を散らされたりイライラさせられたりするのがオチだ。それより良質な演奏会形式の方が、よほど音楽そのものの魅力をたっぷりと味わうことができるというものである。

 今回のウルフ・シルマー指揮によるNHK交響楽団と、主役陣に国際的水準の高い歌手を招聘しての演奏会形式上演は、演奏内容から言って、そうしたねらいをほぼ完璧に達成した成功作と言えるのではなかろうか。

 シルマーの指揮は、かなり素っ気ないところもあり、神秘性とか魔性とかいった要素からは程遠い――第3幕の場面転換の音楽など、全然凄味がない――ものではあるけれど、比較的速めのテンポと明確な隈取りを持つ響きできびきびと作品全体を構築し、長大な演奏時間(30分の休憩2回を含め計5時間強)を手際よく仕切っていた(これを「間」の長い、遅いテンポでねっちりやられたらヘトヘトになるだろう)。

 その一方でシルマーは、ワーグナーがこの最後の作品で粋を凝らした精妙な音色や転調手法、各動機の簡潔にして要を得た交錯といった特徴を、ある程度までは忠実に再現していた。
 第2幕の花園の場や、第3幕中盤から終結にかけての演奏は、すこぶる美しいものであったと思う。第3幕最後で音楽が大波のように打ち寄せては返しながら終結和音に向かって浄化されて行くところなど、私はこの作品の美しさに改めて酔ったものだ。
 こうした美しさは、もちろん作品の中に本来備わっているものだが、もし煩雑な演出で上演されたとしたら聴き手の気を散らしてしまい、耳を素通りして行ってしまったのではなかろうか。

 歌手陣は舞台前方に並び、楽譜を見ながらの歌唱。適度の「演技的身振り」を入れているので、ドラマの雰囲気は最低限でも汲み取れる。みんな好演で、聴き応えがあった。
 グルネマンツを歌ったペーター・ローゼが、いつに変わらぬ雄大重厚な表現で圧倒的な存在感を示す。アムフォルタス役のフランツ・グルントヘーバーも――ちょっと年取ったなと思わされたが――巧味は抜群。クリングゾルは韓国出身のシム・インスンで、悪辣な魔人役という表現には不足していたが、力感ある歌唱だ。

 クンドリは、ミヒャエラ・シュスター。この人は以前にもオルトルートやフリッカなど「憎まれ役」を歌い演じていたのを観たことがあるが、なかなかの芝居巧者だと思っていた。今回も舞台でかなり細かい演技の表情を示していたのが印象に残る。歌唱にも個性を感じさせる注目株だ。だが、クンドリのごとき複雑怪奇な役柄を巧みに表現できるようになるのは、これからだろう。
 パルジファルのブルクハルト・フリッツは、まあ、手堅い出来、という感か。

 しかし総じてこれらの歌手があまり大芝居的な歌い方をしていなかったのは、もしかしたら指揮者シルマーの注文によるものか、そうでなければ彼の即物的(?)な指揮に合わせたのかもしれない。第2幕の初めのクンドリの悲鳴や笑い声を省略したのも、その一環のような気がする(第3幕での呻き声は、これはグルネマンツの歌詞と対応するものゆえ不可欠である)。

 陰歌による小鉄和広の底力のある低音によるティトゥレルをはじめ、脇役の騎士たちや花の乙女たちなどソロは、いずれも日本勢。これもみんな良かった。合唱団は東京オペラシンガーズで、特に活躍の多い男声合唱はすこぶる強力であり、これはもう世界的なレベルに達していると言ってもいいのではないか。

 最後に、N響。金管とティンパニに時たま粗さがあったが、とにかく本気になって演奏すればこういう厚いワーグナーを響かせる力を持っているのだ、ということ。
 8時10分終演。

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