2008-07

ユベール・スダーン 〜大器晩成の実力派〜

 東京交響楽団の音楽監督を勤めるユベール・スダーンは、私のご贔屓指揮者の一人だ。 いわゆる「実力派」の指揮者で、特にモーツァルトなどを振ると、実に新鮮ですばらしい味を聴かせてくれる。先年まではザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の首席指揮者でもあったが、どうも彼が本当にやりたい音楽のスタイルは、むしろ東響を指揮した時の方に、最良の形で発揮されるように感じられる。

 この人は、やはり大器晩成型の指揮者なのだろうと思う。
 初来日したのは1970年代半ば、新日本フィルへの客演であった。私はエフエム東京在籍時代に「新日本フィル演奏会」というレギュラー番組のために彼の指揮をライヴ収録したことがあるのだが、とにかく一風変わった指揮者という印象だった。
 ブラームスの「第2交響曲」を指揮した時には、本番直前のゲネプロに臨んでも恐ろしく細かい注文を出して同じところを繰り返させるので、オーケストラがすっかり疲れ、本番が全く生彩を欠いた演奏になってしまったことがある。またベートーヴェンの「第7交響曲」の時には、第3楽章のあと、普通なら勢いよく第4楽章に突入するところを、何とそこで厳密にチューニングをやらせたため、オケも聴衆も拍子抜けしてしまったこともあった。
 そんなわけで、その頃の彼に対するわれわれの印象は、あまり良くなかったといってもいい。
 だが、現在では前述のとおり、「彼は昔の彼ならず」である。

 スダーンが東響の首席客演指揮者に着任して以降、私は新聞や雑誌に何度か絶賛の批評を書いたが、当時の招聘マネージャーが、それを毎回訳して彼に見せていたらしい。彼は「これを書いた批評家とぜひ話がしてみたい」と言っていたそうで、たまたま新潟での演奏会の終演後に鮨屋で同席、短い時間ながら話をする機会があった。
 私がその年の夏にザルツブルクに行き、彼とモーツァルテウム菅の演奏会を聴く予定があると知った彼は、「その際にはぜひ楽屋に来てくれ。昼メシでも食おう」と言う。
 約束どおり夏にモーツァルテウム大ホールの楽屋を訪れると、彼は満面に笑みを浮かべて私を歓待、その2、3日前にゲルギエフが現地で指揮した「トゥーランドット」についてあれこれ批評を交わした。
 そこまではよかったのだが、そのあと彼は、部屋にいた大勢の人々に、にこやかに私を次のように紹介したのであった。
 「この人は僕の日本での友人で、トウキョウ・シンフォニー・オーケストラのマネージャーだ」。

 スダーンは、今でも演奏会場で会えば気安く声をかけてくれるが、果たしてほんとにこちらの素性を理解してくれているのかどうか、私はいまだに彼に確認するきっかけを持てないでいる。

『TICKET CLASSIC』2006年11月号掲載「演奏家今昔物語〜ユベール・スダーン」より転載

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