2017-08

3・8(月)望月京のオペラ「パン屋大襲撃」

  サントリーホール小ホール・ブルーローズ

 村上春樹の小説「パン屋襲撃」と「パン屋再襲撃」とを合体させたヨハナン・カルディの原台本(英語)を、ラインハルト・パルムがドイツ語訳。
 望月京としてはこれが初のオペラで、1時間半弱の長さを持つ。昨年1月24日にルツェルンで初演されたとのこと。
 指揮はヨハネス・カリツケ、今回は副指揮を杉山洋一、演出を粟國淳が受け持っての日本初演で、今日が2日目の上演だった。なかなか面白い作品である。

 舞台後方に配置されたオーケストラ(東京シンフォニエッタ)にはクラシック系の楽器も多いが、響くのはほとんどが電気楽器系の音づくり。
 ドラムスとハイハットによるシンバルが、パン屋を襲撃する主人公の夫(高橋淳)と妻(飯田みち代)セリフの背景に延々と流れ続ける個所もある。

 そのポップな音と、襲撃されるパン屋の主人(畠山茂)が嵌っているワーグナーのレコードの音との対比も面白い。
 これはプログラムで舩木篤也氏も指摘しているように、「ワーグナーの呪い」――つまり19世紀の巨大なオペラ芸術による重圧――と、それに対する現代オペラとの闘いに発展し得るコンセプトとも言えよう。
 もっとも、私にはそれは、畢竟、後者の「あがき」に過ぎないのではないか、と思われてならない――というのは、そこでポップな音楽の中に響いて来るワーグナーの「タンホイザー」序曲や「神々の黄昏」終場の音楽が、私にはやはり、あまりにも魅力的に感じられたからでもある。

 しかし、このオペラに詰め込まれた望月京の洒落たセンスは、見事なものであると思う。
 細かい話に過ぎないが、パン屋の代わりに襲撃の対象となったマクドナルドの店で、可愛い女性店員(吉原圭子)が銃を突きつけられても平気で軽快に一つの音型を歌い続けているのが、ロボットのごとくマニュアル言葉を繰り返す現代の売り子を皮肉っているようで、なんとも可笑しかった。

 演出は、場面や設定があれこれ突然飛躍するという、現代の日本の演劇と共通するスタイルが採られている。そもそもこれなど、ワーグナーのオペラにおける「移行の芸術」に真っ向から対峙する手法だろう。

 ドイツ語による歌詞とセリフは――私にはそれを批評できる語学力はないが――あまりそれっぽく歯切れよくは聞こえなかったものの、スピーディで楽しかったことは事実であった。日本語の一音一音を長~く引き延ばして歌うテを使った創作オペラが嫌いな私としては、今回の「パン屋」での手法は、現代オペラはやはりこれでなくちゃ、という気がするのである。
 

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