2020-04

2・11(木)旅行日記 ベルリン3日目
 ワーグナー:「さまよえるオランダ人」

    ベルリン・ドイツオペラ

 7時半より「さまよえるオランダ人」を観る。
 これは2008年6月にプレミエされたタチヤーナ・ギュルバカの読み替え演出で、――全くの予備知識無しに見たのだったが、今回ばかりは私も、さっぱり理解も共感も同情も持ち得ない状態に陥っている。

 内容について誤認があってはいけないから、東京に帰ってから物知りたちに教えを請うことにしておき、とりあえず「のように見えた」印象だけを勝手にメモしておくと――。
 ダーラント社長率いる証券取引会社みたいな場所に、異次元から紛れ込んできたような若い「オランダ人」が出現、この男は催眠術のような効果を周囲に及ぼす力を持っており、その魔力は「幽霊船の水夫たちの合唱」を通じても、あるいは彼について話す「ゼンタのバラード」を通じても発揮されるらしい。その魔力から逃れ得ているのは、唯一まともなキャラクターの、ゼンタを愛する青年エリックのみである。
 第3幕は、中級ナイトクラブのような店でのドンチャン騒ぎ。最後は怒った「オランダ人」がナイフをゼンタに渡すと、ゼンタはそのナイフでエリックの頸を切って殺し、返す刀で自分の頸をも切り自殺、並み居る女たちも次々にそのナイフで自らの頸を切って自殺して行く――。

 プログラムには、タチヤーナ本人がもう少し高邁な(?)演出意図をあれこれ語っており、それはそれで結構なことではあるものの、少なくとも実際に「観た」限りでは、ざっとこんな程度にしか見えないのである。
 最近は何かというと相手をすぐ殺したり、自殺したりする読み替え演出がドイツで増えているようだが、これは実に不快極まる。
 滅多なことでは辟易したことのない私も、さすがに今回は拍手をせずに、早々に席を立った。あとには、猛烈なブーイングが続いていたようである。

 ジャック・ラコム指揮するオーケストラは、ぶっつけ本番か、序曲を含めてあちこちいい加減な演奏が多く、昨夜や一昨夜の充実した演奏とは月とスッポンの差。
 しかし、救いは合唱団で、女声も男声も相変わらず好調、圧倒的な迫力を生んでいた(第3幕の幽霊船の水夫の合唱が聞き取りにくかったのは音響演出上の失敗であろう)。

 歌手陣が良かったのも救いであった。ゼンタを歌ったマニュエラ・ウールは張りのある清澄な声だ。少しクールな声質でもあるが、舞台の雰囲気とは合致していただろう。
 オランダ人は Egila Silins という好青年で、7つの海を彷徨った苦労人船長というイメージはどこをつついても出て来ないものの、若いビジネスマン(幽霊?)としてはそれなりにまとまっている。

 ダーラント社長はハンス=ペーター・ケーニヒで、これは相変わらず堂々たる風格。
 いつもどこか粗いところの抜けないエントリク・ヴォトリヒが、今回は実に安定したエリックを聴かせていた。

 今回の演奏では、序曲と第3幕の終結は「救済の動機」入りの版が使用され、全曲切れ目無しの版で演奏された。
 また第2幕最後の三重唱および第3幕最後の三重唱では、予想通り慣習的なカットが行なわれていた。
 しかし、――舞台のあまりの乱雑さに耐えかね、ついに私は、どこでも、いくらでもカットしていいから、とにかく早く終ってもらいたいね、という心境にまで到ってしまったのである。こんな体験は、初めてだ。
 あのザルツブルク音楽祭での、悪名高かったノイエンフェルス演出「コジ・ファン・トゥッテ」でも、同じくヘアハイム演出の「後宮よりの逃走」でも、観ていてこんなにイライラさせられたことはなかった。

 9時40分終演。また雪が降り出した。今夜はかなり盛んに降っている。

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