2020-04

2・9(火)旅行日記 ベルリン初日 ワーグナー:「ローエングリン」

    ベルリン・ドイツオペラ

 前日夕方ベルリンに入る。小雪がちらつく猛烈な冷え。マイナス4度くらいではなかろうか。何日か前に降った雪が黒くなってあちこちに凍りついている。

 今回はベルリン・ドイツオペラでのワーグナー4夜連続だ。といっても「指環」でなく、新演出の「リエンツィ」が眼目で、ついでに初期に属する3つのロマンティック・オペラも観ようというわけ。

 初日の今夜は、「ローエングリン」。20年前に制作された故ゲッツ・フリードリヒ演出版が、まだ大事に(?)上演されている。
 だが観ていると、ペーター・シコラの舞台装置ともども、――どこがどうだからというわけではないが――やはり何となく古色蒼然として来たかな、という気もする。もっとも、どれほど良いプロダクションでも、長年の上演でルーティン化してしまうと、細かいところがいい加減になって来るものである。何かこちらの気持にぴったり来ないのは、そういうことも理由の一つかもしれない。

 茶色の木目のような舞台装置、特に床は、不思議に家具調を連想させる。第2幕の2人の女の対決場面など、どう見ても安マンションのベランダから顔を出すエルザ――だ。
 一方、その家具調の舞台の「床」の手前には、古い石がゴロゴロ転がる、日本の石庭を野卑にしたような光景の「庭」みたいなものがある。オルトルートの動きからすると、どうやらその二つの部分によって、キリスト教徒の世界と、ゲルマンの旧教徒の世界の対比を暗示しているようにも解釈できる。

 演技の面では、ローエングリン(ベン・ヘップナー)やエルザ(リカルダ・メルベート)やテルラムント(アイケ・ヴィルム・シュルテ)をはじめ、兵士や群集に至るまで、動きが妙にトロい。そのため、ドラマトゥルギーの必然性や緊迫感の面で、もどかしい思いにさせられてしまう。「ローエングリン、ボケッと突っ立ってないで、早く何とかせんかい」と言いたくなるような感じである。
 しかしただ一人、オルトルートを歌い演じたワルトラウト・マイヤーだけはきわめて細かい芝居をしており、エルザに見せかけの同情を注いだり(第1幕)、無言で威嚇したり(第2幕幕切れ)、ゴットフリート少年に媚びつつも再び呪うかの動作を示したり(第3幕大詰め)という場面などで見事な表情の変化を見せ、舞台全体を引き締めていた。
 もしかしたらそれは、彼女が自分で考えて演技していたのかもしれない。ベテランの彼女なら、やりそうなことである。

 なお、第2幕の幕切れ――教会に向かう婚礼の行進の音楽の中に突然「禁問の動機」が割って入る劇的なクライマックスは、ワーグナーの作曲技術が中期の熟練に達した例の一つともいえるが、このフリードリヒの演出では、そこで一瞬照明が暗くなり、上手の教会の石段に足をかけたエルザのみが愕然として振り返り、下手に威圧するように立つオルトルートと視線を合わせるという、一種の心理描写的な描き方が採られていた。
 しかも、そのあと婚礼の行列が上手に歩み去ったにもかかわらず、一度幕が降りて再び上がったカーテンコールでは、舞台は何と数秒前の、エルザが振り返った場面にリセットされていたのであった。ドラマの大詰めを控えての、なかなか気の利いたアイディアである。実は、今夜の舞台でいちばん気に入ったのはここなのであった。

 指揮はミヒャエル・シェーンヴァントで、悪くはないが、まあ無難な出来であろう。第2幕のブラバント人たちの合唱はノーカットで歌われたが、第3幕では慣習通りのカットの連続であった。仕方のないことなのかもしれぬ。
 歌手陣では、前述の通りワルトラウト・マイヤーが声を巧くカバーして味のある歌唱であった――ラストシーンでのローエングリンに呪いの言葉を浴びせかけるくだりなど、絶叫調にならず、ここまで安定した声を響かせられるオルトルートが他にいるであろうか? ヘップナーは後半少し声が疲れたようだが、この人、最近同様なケースによくぶつかる。メルベートとシュルテ、それに国王役のクリスティン・ジクムッソンは手堅い出来。

 ベルリン・ドイツオペラのオーケストラは比較的綺麗な音を出していたという印象だったが、第3幕で客席後方から吹いていたバンダ群(トラだろう)は何とも下手糞で興を削ぐ。隣に座っていた紳士が、聞かせどころでトランペットが派手にこけた瞬間、「参ったねこりゃ」という様子で額を押さえ、下を向いてしまったのが可笑しかった。合唱団はなかなか好調である。
 6時開演、30分の休憩2回を挟み、10時40分終演。

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