2020-05

12・20(日) ウィーン第1日
ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・フィル
フランツ・シュミット:オラトリオ「7つの封印の書」

 ムジークフェライン大ホール (午前11時開演)

 「PARTERRE-Loge 1-1」――つまり1階ロージェ席の上手側舞台側最前列の1番は、「希望しても滅多に手に入らない席で、マニアなら狂喜乱舞する席」であるそうな。それが何と偶然にも手に入ってしまった。

 ここはもう舞台上、ヴィオラなら5プルト目くらいにあたる場所で、テレビ中継でもあった日には、のべつ写されてしまう位置である(幸いに今日はカメラはなく、助かった)。こちらの席とはわずか飾り紐1本で隔てられたすぐ右側の舞台を、指揮者やソリストが通って出入りする。演奏中には、コントラバス奏者の弓に膝を突き刺されそうな感じになる――事実、私の膝とは2,3センチしか離れていない木製の手摺の角に弓がゴツンとぶつかったくらいだ。

 それはいいとしても、コーラスやティンパニは、耳元で炸裂する。一方、向こう側にいる第1ヴァイオリンやホルンの内声部は、殆ど聞き取れない。そんな具合だから、オーケストラのバランスはさっぱり解らない。だから私にとっては欣喜雀躍どころか、知人でもいれば他の席と交換したいと思ったほどなのである。

 しかし、いざ座ってみると、アーノンクールが赤鬼のような顔で指揮をしている姿が眼前数メートルの位置に見える面白さや、オケの中に居ながら聴いているような音響的な面白さは、たしかにある。
また、トランペットが大きな音で吹くたびに、前に座っているオーボエ奏者たちがその都度そっと片耳を抑えるといった「裏事情」も目の前に見える。というわけで、千載一遇の得がたい体験ができたことは確かであった。
 そして、このホールの中で聴くウィーン・フィルは、いかなる席で聴いても音がいいものだ、ということをまたしても実感する機会となった。結果としては、大いに愉しんで会場を後にした次第である。だがいずれにせよ、この席に座る機会は、もう2度とないだろう。

 フランツ・シュミットの「7つの封印の書(7つの封印を有する書)」は、ヨハネ黙示録を基にした歌詞内容にはあまり共感できないものの、とにかく音楽が凄い。
 これは今年7月にも、アルミンクと新日本フィルの演奏をトリフォニーホールで聴いたばかり。何十年に一度しか演奏されないような曲を、たった半年の間に2度も聴けたというのは僥倖に違いない。
 とりわけ71年前にこの曲が初演された、その同じムジークフェラインの大ホールで聴けるというのは、一種の縁というものだろう。

 東京でのアルミンクの若々しい率直な指揮も決して悪くはなかったが、今日の演奏が根本的にそれと違う一点は、コーラス(ウィーン楽友協会合唱団)と声楽ソリストたちの発音の明確さと強いアクセント、しかも表情の強烈さから生まれる歌詞の劇的な迫力ではないかと思う。

 特に合唱団の叩きつけるような強いドイツ語の発音は凄まじく、「第2の封印」における殺戮の合唱では、あの反復される同一リズムとともに身の毛のよだつような迫力を生み出す。
 また、「第3の封印」の場で、母娘の嘆きを歌うドロテア・レッシュマン(ソプラノ)の歌唱の激烈さと深い情感は、涙を催させるほど見事なものであった。彼女のドラマティックな表情に満ちた嘆きの歌を聴けただけでも、この日の演奏を聴きに来た甲斐があったとさえ思えたほどである。

 ソリストたちは他に、エリーザベト・クルマン(アルト)、ヴェルナー・ギューラ(テノール)、フローリアン・ベッシュ(バス)、ローベルト・ホル(バス、天の声)。みんな素晴しい。特にホルの底力ある低音は、ひときわ他を圧してそそり立っていた。
 ヨハネ役はミヒャエル・シャーデ(テノール)。彼だけは他のソリストとは別に指揮者の傍に位置しており、そこは私の席からは真横に当たるため、その真価を聴くには不充分の角度だった。だが、長丁場をこなした歌唱は、おそらく見事なものだったはずである。

 アーノンクールは、ヨハネのレチタティーヴォ風の「Und・・・・」という個所だけ常にテンポを遅く採る癖を除けば、今回は予想外にストレートな指揮である。「殺戮の場面」でのオーケストラのあのリズムが遠ざかり、消えて行く場面での扱いの巧さは、形容しがたい鮮やかさだ。全曲ひた押しに押す迫力と、最後の「ハレルヤ」の合唱での昂揚感も圧倒的なものがある。充実感にあふれた快演だった。

 この席を出た所は、ほとんど楽屋といってもいいような廊下だ。
 出た途端に思わずぶつかりそうになり、「失礼」と言ってよけながら見た相手は、この時期、国立歌劇場で「トリスタン」を指揮しているサイモン・ラトル。

 雪は止んでいるが、一般道路は冠雪状態。歌劇場周辺の市街は残雪による凍結で歩きにくい。耳も凍りそうな冷たい空気である。気温はマイナス数度だろう。

コメント

あれっ、フローリアン・ベッシュにも11月、遭遇する予定であります。たまたま読んだ記事なのにびっくり。これはネコ的勘なのか・・・。すごいお席に座られたのですね。そういう場所は、オケの奏者になった気分が味わえますよね。

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