2020-07

11・21(土)関西二期会 ベートーヴェン:「フィデリオ」

   アルカイックホール (尼崎)

 関西フィルが舞台上の前面に配置されているので、ハテ今回はセミ・ステージ上演だったのかなと一瞬首をひねったが、序曲が終るとオーケストラがピットに沈んで行き、通常のオペラ上演の形に変ったのに納得。
 第2幕途中での「レオノーレ序曲第3番」の演奏の際にもピットが上昇して、オーケストラが主役に躍り出る。このテは、欧州の歌劇場やマリインスキー劇場などでも時たま使われているらしいが、なかなか効果的だ。欲を言えば、演奏しながら上昇・下降が行なわれれば、ドラマの緊迫感が中断しなくて済むのだけれど。

 その関西フィルを指揮した飯守泰次郎は、さすがの練達ぶりだ。
 序曲の冒頭から、音楽が瑞々しく躍動している。惨忍な刑務所長ドン・ピツァロが登場する際の行進曲のリズムの重々しい不気味さや、第2幕冒頭のフロレスタンのアリア後半における「憧れのリズム」の波打つ高揚、それに続くレオノーレとロッコの対話の背景に流れる音楽の暗鬱な響きなど、平凡な指揮者なら無味乾燥に陥りやすいこれらの個所での飯守の音楽づくりは、まさに妙味と言っていい。決して力むことのない演奏ながら、アクセントは強く、ベートーヴェンの音楽特有のメリハリを充分に再現している。これだけ情感の豊かな音楽を聴かせる指揮者は、こんにちでは稀であろう。
 関西フィルも(ホルンの頼りなさを除けば)、この指揮によく応えており、好演であった。

 歌手陣では、フロレスタンを歌った小餅谷哲男が光った。時々走りすぎてオーケストラと合わなくなるのはいただけないが、不屈の囚人といった性格を感じさせる声の表現は魅力だ。
 看守長ロッコを歌った橘茂は、この役にしては声が軽い(その点、22日の木川田澄は適役だろう)が、表現力においては優れたものを聴かせていた。
 レオノーレの小西潤子とドン・ピツァロの花月真は、精一杯という感じだろう。ドン・フェルナンドの菊田隼平は低音が弱く、「正義の大臣」役としては存在感に欠ける。脇役だが、松原友(ヤキーノ)と高嶋優羽(マルツェリーネ)が、それぞれ役に合った良い表現を聴かせていた。

 但し、問題がある。だれもかれも、ドイツ語のセリフ回しがひどく単調であることだ。喜びだろうと怒りだろうと、すべての感情が間延びした同じ調子で喋られ、かつセリフと音楽との「間」ものんびりと空いているので、登場人物の心理の変化の表現やドラマの緊迫感が著しく削がれてしまう。これは指揮者の責任か、演出家の責任か?

 その演出(栗山昌良)に関しては、何をか言わんやだ。いまどき、こんな時代遅れで中途半端な舞台が罷り通るとは、恐れ入った話である。
 登場人物は舞台に出て来て姿勢を整え、客席を向いて直立不動で歌い、「歌い終ると退場」するというパターン。各キャラクターがセリフや音楽の上で演技的に反応し合うことは、最初のヤキーノとマルツェリーネの場を除けば、皆無と言っていい。
 刑務所長が激怒しているという報せを持って慌てて駆け込んできたマルツェリーネが、突然落ち着いた姿勢になって歌い始めるなどということなど、オペラの上演で考えられるだろうか? 地下牢での息詰まる対決の場面など、それぞれ勝手な方を向いたままの人物の表情の無さには腹立たしくなる。
 ヴィーラント・ワーグナー風の象徴的演出を真似るならそれでもいい。だが今回は、そこまで徹底もしていない。それに、なまじ全員がリアルな衣装姿でやるから始末に悪い。フィナーレでも、演技をする大臣、一切無表情で正面中空を見つめたままのレオノーレといった具合に、統一が取れていない。

 ちなみに、フィナーレで演技を停止させ、オラトリオ形式に変えてしまう演出は、ヨーロッパの歌劇場では時々見られる。だがそれが生きるのは、それに先立つ緊迫したドラマトゥルギーとの対比があってこそなのである。

 結局今回は、高い制作費を注ぎ込んで装置と衣装を作っておきながら、実際には演技なしの演奏会形式に等しい手法でやったような結果になった。
 レジー・テアター系演出をやれなどと言っているのではない。だが、もっと生きた人間のドラマを舞台上に創り出せるような――本当のドラマトゥルギーを駆使してオペラの舞台を創れるような演出家は、わが国にはいないのだろうか?

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