2020-04

9・19(土)クリストファー・ホグウッド指揮NHK交響楽団 9月A定期
愉しめたメンデルスゾーンの初稿

  NHKホール

 メンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」は、私が小学校の頃、初めてNHKの当時の内幸町の第1スタジオでN響のリハーサルを聴いて以来、愛聴措くあたわざる曲なのである。
 その曲の初稿(1830年ローマ稿、ホグウッド校訂)が日本初演されるとあっては、聴き逃せない。シャイーがゲヴァントハウス管と録音したCDには未だ接していなかったので、今日はそれこそ耳をそばだてて聴く。

 非常に面白かったが、やはり呆気に取られた。提示部後半など全く別の音楽だし、展開部でも、聴きなれた音楽の間に――そこだけ聞いたら何の曲かと思うような曲想が、数限りなく割って入って来る。再現部でもコーダでも然り。
 何より意外だったのは、現行版(出版譜)で聴けるような、巌窟に打ち寄せる荒々しい波濤、吹き荒ぶ風に舞う波しぶき、波頭の上に舞う海鳥の姿――といった北海の荒涼たる光景が、この初稿を聴いている間は、全く頭の中に浮かんで来なかったことだ。現行版がいかに流れ良いものに改訂されているかを痛感させられるケースである。

 「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」の「1844年初稿版」は、すでにイザベル・ファン・クーレンが作曲者の自筆譜を使って1995年に録音したCD(BIS)でも聴いているし、また2005年ベーレンライター社出版の校訂譜をダニエル・ホープが演奏して録音したCD(DGG)でも聴いているから、さほどの驚きはない。それにこの曲では、「フィンガルの洞窟」におけるごとくアレヨアレヨという間に「違う曲」へ移って行ってしまうというようなことも、ほとんどない。
 しかし、ヴァイオリンのソロ・パートが、現行版に比べて随分違うのが興味深い。第1楽章のカデンツァも、かなり短い。ホープは、CDと同じように冒頭からポルタメントを多用し、嫋々たる表情を加えて面白い演奏を聴かせてくれた。

 プログラム後半の交響曲第3番「スコットランド」は、2006年にブライトコップから出版された新全集(作曲者の最終稿に基づくもので、現行の通常版とは細部が違うという。ややこしい話だ)による演奏だそうだが、何と、――これはまた異稿かと感じさせるくらい、聴き慣れたこの曲とは違った響きがした。
 スコアを見ていないので詳細は不明だが、聴いた感じでは、演奏に際して管楽器の音量や音色のバランスが綿密に考慮された結果なのではないか、という気がする。弦楽器群よりも管楽器群の響きの方が前面に立ち現われ、和声的にも多彩な響きを創り、しかも全ての楽器が豊かなニュアンスで語る――という演奏は、スコアのせいではなく、ホグウッドの解釈によるところが大きいだろう。
 とにかく、これほどスリリングな「スコッチ」の演奏を聴いたのは、初めてだ。

 以上の3曲で、ホグウッドが如何に精妙で精緻な表情をN響から引き出したか、驚くべきものがある。これに応えたN響も、また立派なものであった。出来得れば、こんなNHKホールのような場所でない、もっと音響の優れたホールで聴きたい演奏であった。
 ともあれ、メンデルスゾーン生誕200年を記念する公演の中では、今日の演奏会は、選曲・演奏ともに出色のもの、といって間違いないだろう。

 帰りがけに渋谷のタワーレコードへ寄って、遅まきながらシャイー指揮の「MENDELSSOHN DISCOVERIES」というデッカ盤を手に入れた。これには、「フィンガルの洞窟」のホグウッド校訂による1830年初稿の演奏も、「スコットランド」の1842年ロンドン稿(初稿)の演奏も入っている。
 今日の演奏会でこの「スコッチ」の初稿も取り上げられればよかったのに、とは私も思うが、あれだけの演奏が聴ければ、それ以上は望まないことにしよう。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://concertdiary.blog118.fc2.com/tb.php/568-9bf07678
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

最近の記事

お知らせ

●2007年7月以前のArchivesを順次、アップロード中です。併せてご覧下さい。
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2006年7月

Category

ブログ内検索

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」