2020-04

9・5(土)福井敬 テノール・リサイタル

   日本大学カザルスホール (マチネー、1時)

 第1部にチマーラの歌曲3曲、日本歌曲6曲(山田耕筰、中田喜直、武満徹他)、第2部にオペラなど(ウェストサイド・ストーリー、ほほえみの国、ウェルテル、アイーダ、道化師、トウーランドット)のアリア計6曲、それにアンコール数曲(しかも最後は「グラナダ」の絶唱!)という超重量プログラムを、疲れも見せず歌い切る。

 よほどのパワーがある歌手でないと、終盤にかけてますます盛り上げて行くこういうプログラムは組めないだろう。この人の歌唱は常に安定していて、声が崩れるという気配を一切見せないのが特徴だ。福井敬のあらゆる面を一覧にして展示したような、聴き応えのあるリサイタルだった。ピアノは河原忠之。

 特別ゲストの江川紹子さんとのステージ対談で福井さんは、「僕の一番興味のあるのは転落して行く男を演じること」というような意味のことを話していた。なるほど、そう言われてみると確かに、私がこれまで数多く観たり聴いたりした福井さんの役柄の中での最高傑作は、ブリテンの「ピーター・グライムズ」とか、ツェムリンスキーの「こびと~王女様の誕生日」といったような、「悲劇的なキャラクター」だった。

 久しぶりのカザルスホール。なんという美しいホールだろうと思う。昔はここによく通ったものだった。ホール内の香りも、「鳥の歌」のチャイムも、ロビーに張られたカザルスの額縁入りポスターも、みんな昔どおり。しかし、あの頃ホールに来れば必ず会えたアウフタクト(ホールの制作事務所)のスタッフは、もうだれもいない。ロビーにまだ置かれたままの「CASALS HALL倶楽部」のボードが、ありし日のこのホールの盛況を思い出させて、寂しい。
 後発の紀尾井ホールに人気をさらわれ、すでに以前からクラシックの「トップ中ホール」の位置を失ってしまっていたが、しかしその雰囲気の良さ、音響のすばらしさは、かけがえのないものであった。それは、クラシック・ファンの記憶の中に、永く生き続けるだろう。私にとっても、この日本屈指の名ホールを訪れるのは、おそらくこれが最後かもしれない。

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