2019-05

8・28(金)バイロイト音楽祭 ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」

  バイロイト祝祭劇場

 バイロイト音楽祭の会場の売店に、寿司を発見。あまりアテにはならないとは思ったが、まさかこんなところでこんなものを売っているとは予想もしなかったし、体裁は一応整っていたので、ものは試しとばかり4ユーロほど払い、買ってみる。いや食べられればこそ。一口食べて吐き出した。コメの問題もあろうが、冷凍のせいもあろう。劇場付属のレストランには、寿司のコーナーなどない。だれが作ったのだろう?

 結局今年は、音楽祭最後の日まで暑さが続いた。冷房のない劇場で、連日のように汗まみれ。ワーグナー聖地への巡礼は苦行である。今日は大詰めの「愛の死」直前、なぜかあちこちで同時に倒れる観客が続出、運び出されていた。

 「トリスタンとイゾルデ」は、2005年に大植英次の指揮で聴いたプレミエの年以来。
 あの翌年から、指揮はペーター・シュナイダーに替わっている。流石に手馴れたもので、第1幕はルーティン的で平凡な演奏だったが、第2幕の「愛の二重唱」からは突然生気を取り戻した。うねり、絡み合い、渦巻きつつ高揚する官能の音たちのすばらしいこと。今夏の音楽祭の最終公演を飾らんとするかのように、指揮者もオーケストラも燃えていた。
 これほど見事な第2幕の「愛の場面」は、これまで聴いたことがないほどだ。バイロイトのオーケストラの凄さを遺憾なく発揮した名演というにふさわしい。

 ただし、歌手陣には少々不満が残る。
 イゾルデのイレーナ・テオリンは、パワーはあるけれども絶叫タイプで、聴いていると些か疲れて来る(プレミエの年のニーナ・ステンメは良かった!)。クルヴェナルのユッカ・ラシライネンも第3幕では吠え放題という感。ところがこの2人は、大変な人気だ。
 トリスタンのロバート・ディーン・スミスはプレミエ以来の出演で、声量があまり大きくないため前記の2人に比べやや分が悪いが、所謂「英雄的な騎士」ではない「憂いのトリスタン」の表現としては充分すぎるほどに責任を果たしている。もちろん、彼への拍手も大きい。
 ブランゲーネのミケーレ・ブリートは、フリッカの時と同様に野暮ったい容姿と演技で、舞台上では少々損をしているような気もするが、観客の拍手に不足は見られない。マルケ王は老練ロベルト・ホル、物々しい歌唱だが味は充分。

 クリストフ・マルターラーの演出は、プレミエの際とほとんど変わっていない。
 大型客船の船室を幕ごとに1層ずつ下ろして行くような場面設定も同じ。イゾルデが愛の矛盾のストレスに陥る時に連動して起る(らしい)蛍光灯の慌しい点滅も、また彼女がそれを子供みたいに指差して相手(ブランゲーネあるいはマルケ王)の言うことを全く真面目に聞いていない様子を表わすのも同じである。
 
 第1幕と第2幕はごくオーソドックスな進行で、演技もかなり微細に行なわれている。が、第3幕は、相変わらず解釈がさまざまに可能な舞台だ。トリスタンはベッドから転がり落ちるようにして息を引き取り、イゾルデはベッドに独り横たわりシーツを被って死ぬ。マルケ王もメーロトもブランゲーネも、全く客観的な立場を守る。
 この幕の解釈については、すでにいろいろな文献によって教えられたことも多いが、それでもいまだに釈然としないところの方が多いのだ。
 むしろ私は、この場面を眺めていると、この幕はクルヴェナルはじめ(彼が幻想に取り付かれていることは、第2幕の最後の異様な振舞からして明白だろう)登場人物すべてが既に己の勝手な幻想に耽っている世界である――ということを想像してしまうのだが、さてそれを第2幕までの流れと関連付けようとすると、やはりうまく行かない。
 そもそもこの演出では、トリスタンとイゾルデは、最初から愛し合ってなどいずに、ただ薬の効果によって愛を感じるようになったような雰囲気さえ、感じられるのである。

 全曲最後の解決和音が美しく溶解して行ったあと、2,3秒おいて、猛烈なブーイングが沸き起こった。プレミエの年にもブーは凄かったが、それは演出家と指揮者へのそれが相半ばしていたのであって、今回は完全に演出に対する抗議である。しかし、プレミエ以来既に5年、それも今年の最終上演においてさえ未だに盛んなブーイングを呼ぶということは、この演出が意外に新鮮さを失わないという証明にもなるか。

 これで、今年のバイロイト音楽祭もめでたく閉幕。こちらも翌朝、帰国の途につく。

グランド・オペラ 2009年秋号

コメント

8/17に観ました

バイロイト詣の初日。余りの暑さにバテバテの状態で観ました。しかしこの日のシュナイダーは先生がお聴になった時ほど良くはなく、冴えないものでした。歌手も出来が悪く、演出も私は好きになれません。

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