2020-04

10・6(土)フェルメール・クァルテット

  紀尾井ホール

 アメリカのフェルメール・クァルテットが、38年の歴史に幕を下ろす。70年代には今井信子もメンバーの一人だった名門弦楽四重奏団だ。

 その引退記念ツァーがベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲ツィクルス(6回)をもって、紀尾井ホールで行なわれた。この日は第5日。一つの時代が終りを告げる場面に立ち合うのは寂しく、何か荘厳な感動に迫られる。「第3番」「第10番《ハープ》」「第9番《ラズモフスキー第3番》」というプログラムに、このクァルテットを聴くのももうこれが最後なのだ、という感慨をこめて向き合う。

 フェルメール・クァルテットの音色は、昨日のパノハと全く異なるタイプの、洗練された明晰なものだが、それは少しも冷たくはない。四つの温かい光線が絡み合うような音の動きを集中して聴いていると、ベートーヴェンが各声部にあたえた熱い血潮のようなものが、実に鮮やかに浮かび上がってくるのを私は感じる。「ハープ」の大詰の箇所に、これほどの旋律美を聴きとったことは、私の経験では、かつてなかった。また「ラズモフスキー第3番」の冒頭を強烈なアタックで開始する方法は今日も採られたが、彼らの気魄を感じさせて、これもすこぶる印象的である。

 明日の最終回の公演は、残念ながら聴けない。このクァルテットに深い感謝を捧げよう。

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