2020-04

6・28(日)大植英次指揮
ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー日本最終公演
マーラー「交響曲第9番」

  サントリーホール
       
 先頃の大阪フィルとの「5番」(2月17日)以来、大植のマーラーを聴く時には「どのくらい遅いテンポで指揮するか」に興味を持つという――以前には考えられなかったことだ――おかしな心理状態になってしまった。
 彼の話によれば、あの時には彼の御母堂の病気のこともあって特別なものになったということだが、しかし今日の「9番」のテンポも、やはり相当遅い方だ。
 時計をちゃんと見ていなかったので正確な演奏時間は判らないが、総計96分くらいかかっていたのでは? 楽章間の休み計3分ほどを差し引いても、93分くらいになる。並みの演奏より10分は長い勘定だ。

 かなり遅いテンポだったのは中間2楽章。それに対し両端楽章は「遅めのテンポ」という程度だったであろう。
 しかし、物理的には遅いテンポでも、実際にはさほど遅さを意識させなかった、というのが、今日の演奏の最大の特徴である。演奏に緊張度が失われず、弛緩が皆無であれば、かりにいくら遅いテンポであっても、音楽は充分に成り立つものだ。大植と北ドイツ放送フィルは、それを可能にしていたのである。

 特に第3楽章は、ふつうはマーラーの「躁状態」を反映するような狂乱一辺倒の演奏になることが多いのだが、今日の大植の指揮は――何と言い表したらいいか言葉が見つからないが――もっと重々しく厳めしい表情の、しかもその中に皮肉で不気味な薄笑いを漂わせているマーラーが浮かび上がって来るような、何とも怪奇な世界を創り出していた。このテンポは、風変わりなものではあったが、不思議に納得が行く。
 このような個性的な大植の解釈を、柔軟に自在に、しかも生気に満ちて演奏に反映する北ドイツ放送フィルの実力も、すでに卓越したものである。

 思えばこのオケが初めて彼とともに日本に来た時、それはいかにもドイツのローカル・オケといった雰囲気で、良くも悪くもくすんだ実直な響きを持っていた。しかし、今やこのオーケストラは、重厚な響きと、明るく躍動的なリズム感とを併せ持ち、以前にはなかったような多彩な音色と表情を備えるようになっている。
 首席指揮者としての11年の間に、大植はこのオーケストラを、完璧に手中に収めた。両者にとって最良の結果が生み出されたことは疑いない。その最後の見事な総決算が、今日のマーラーの「9番」だったのである。大植としても感無量だったに違いない。
 この日本公演をもって首席指揮者を退く彼に、オーケストラは「終身名誉指揮者」の称号を捧げるという。

 なお、今日の録音はエクストンからリリースされる由。第4楽章の最後の個所で客席からの「大きな」咳が多かったので、終演後にその部分が収録し直されたはずである。先日のアルミンク=新日本フィルの「9番」の時のような長い静寂が保たれていればよかったのだが・・・・。
 以前ザルツブルクでアバドとベルリン・フィルがこの曲を演奏した際、最後の長い弱音のところで、それこそ無神経に平然と、しかも延々と咳をしていた中年の外人女が2階席にいた。さすがに場内が怒りでざわついたほどである。あれは酷すぎた。
 それに比べれば・・・・とは言え、やっぱり「咳とクシャミと紙の音」はいけない。

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すばらしい演奏

 当方の粗い計測では、1楽章31分半、2楽章19分、3楽章17分、終楽章28分半。レヴァイン、ベルティー二級のテンポでしたが、前日のベートーヴェン7番(標準テンポ42分)が今一歩の出来で懸念したのでが、全然弛緩せず、留保の余地のない没入できる名演でした。ところで、この曲でのtiefe Glockenが、長方形の板状の楽器を使ったのを見たのは初めてでした。先生は見たことありますか?チューブラベルと違って、鈍調・混濁な残響多い独得な効果を呈していました。
 1楽章で、チェロのファーストプルト次席(弦が切れたようですね)が退出したり、観客も2,3人退場したりでハイドン45番かい、と諧謔な気分になりました。あと、咳漱ですが、意図的でない場合、サーモスタットで空調から送風される時に、ダクトにある塵埃も拡散されそれが引き金になることが多いように思われます。
 折も折り、先生の「音楽の友」最新号(私は、グルネマンツの語りに耳を傾ける小僧のごとく愛読しております。)に1970年のバーンスタインの当曲演奏の記事を鑑みながら感慨にふけりました。

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