2008-05

9・29(土)モーシェ・アツモン指揮NHK交響楽団

 NHKホール

 アツモンは、これがN響初登場。彼の特徴が演奏の随所に出ていた・・・・というより、初顔合わせのアツモンが振るとN響はこういう音を出すのか、ということ。「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」冒頭の弦の3小節にはアツモンらしい端正で澄んだ表情が感じられたものの、全体にやはり呼吸が合わないのか、あまり融通の利かぬ演奏で、「愉快ないたずら」ではなく「真面目ないたずら」の雰囲気。

 その点からも、次のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲「トルコ風」の方にアツモンの個性が出やすいと思われたが、控えめだったその演奏のため、むしろセルゲイ・クリーロフの濃厚で色っぽい、よく歌うソロに、ステージを攫われた感がある。
 このソリストは丁寧に音楽をつくる人で、たとえば下行する二つの音符の二つ目で常にすっと力を抜いたり、第2楽章のカデンツァではホ音に落ち着くまでの個所を色濃い表情で歌い、それを艶めかしくオーケストラに渡すといった芸の細かさも示す。こうした手法は別に彼独特のものではないが、そこに色彩的で骨太な音色が加わると、何か不思議に官能的な音楽になるのである。こういうモーツァルトも面白い。いいヴァイオリニストだ。

 最後のブラームスの「交響曲第1番」は、冒頭は予想に反して柔らかいしっとりした味で開始された。アツモンが変貌したかと思われたが、これはどうも、頑固なN響が己れのスタイルで押したのではないかという気がしないでもない。しかし、第3楽章中程から音楽の響きががらりと変わり、端正で引き締まった勢いのある表情になって行き、終楽章大詰にかけては気迫満々、きりっとしたリズムで追い込み、壮絶な高揚を示すにいたった。これがアツモンの音楽であろう。結局、川中島の合戦ではないけれど、前半2楽章はN響の勝ち、後半2楽章はアツモンの勝ちというところか。最後は熱烈なブラヴォーの歓声が沸き起こった。

 この日はNHK−FMの生中継番組でゲスト解説を担当、1階最後列の席と中継室とを慌ただしく往復したが、演奏そのものはナマでじっくりと聴くことができた。

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