2020-04

6・2(火)ペーター・コンヴィチュニーのオペラ演出ワークショップ

  昭和音楽大学ユリホール

 (前項に続く)
 その6日間にわたる「オペラ演出ワークショップ」の、今日は初日。

 3時から行なわれた記者懇親会での質疑応答では、私が質問した「なぜオペラのクライマックスで音楽を止め、そこで登場人物たちが議論を行なうような手法を選ぶか」に答えての説明などもあって面白かったが――私が質問したのは本当はそのことでなく、「演奏が再開された時に、それまでの音楽の高揚の流れが中断されてしまい、演奏が白けてしまった例がいくつかあったが、その危険性についていかがお考えなりや」ということだったのだが、結局彼は言外に「それは指揮者の責任」という意味を含ませたかったらしい。

 2時間にわたる懇親会のあと、コンヴィチュニーはそのままたいした休憩も取らずに6時から「演出ワークショップ」――「公開演技指導」に入り、3時間以上にわたって実地指導とビデオによる演出のレクチュアを行なった。
 素材は「タンホイザー」第3幕の「エリーザベトの祈り」と「夕星の歌」。歌詞と音楽とに基づく精密詳細きわまる心理分析を行ない、それを演技として指示して行く。

 前者の歌では、「祈り」というより「絶望」の感情を強く表現することをエリーザベト(伊藤さやか)に指示、彼女が「肉欲への悔悟」を口にしたことに驚愕動転するヴォルフラムの感情を巧く表現するよう歌手(月野進)に指示する。
 そのあとの長い間奏の個所では、エリーザベトがヴォルフラムの秘めた愛に慰めを見出して行く過程を緻密に表わすよう指示。そして、「夕星の歌」の中で彼女が自ら剣で手首を切り、彼の膝の中で安息を得て死んで行く場面の指導に移る。

 すべてこれらはト書とは異なる、コンヴィチュニー独自の解釈による演出であり、登場人物の心理や相関関係を深く読み込んだ演出である。
 それゆえ、彼の「タンホイザー」演出では、タンホイザーやエリーザベトよりもヴォルフラムの存在が非常に重要となるのだ。
 昨年春に観たドレスデンでの上演では、マーカス・バッターの実に巧みな演技で、見事にそれが表現されていた。ヴォルフラムは、エリーザベトのことを想って取り乱し続ける、非常に多感な男として描き出されていたのである(来日上演では、代役で来たアラン・タイトゥスが全篇棒立ちで全く演技をしなかったため、主役3人の三角関係が全然浮き彫りにされず、平凡な舞台と化していたのは痛恨の極みであった)。

 最後に彼の演出による「ヴォツェック」のマリー殺害の場面がビデオで紹介されたが、そこではマリーが単にヴォツェックだけにより殺されるのではなく、「社会」に制裁され殺されること――これは「エフゲニー・オネーギン」でレンスキーが「世論=マスコミ」により殺されるという彼の演出と共通している――が表現されていた。
 このように、主人公にのみ悲劇の責任を負わせず、その原因を社会と関連させて考えるという、ある意味での「主人公に対する温かい同情の念」は、コンヴィチュニーの演出コンセプトにおける特徴の一つというべきものであろう。

 さながら演出学校の実地を見学するような気持にさせられるこのワークショップは、オペラ関係者にとっても、われわれ観客にとっても、実に有益である。
 日本のオペラ界がこのような演出教育のシステムを常備するまでには、まだ随分時間がかかるだろうが――そして、かりに常備されても、それが効果を表わすようになるまでには、気が遠くなるほどの時間がかかるだろうが――とにかく今、だれかが手をつけなくてはならない。
 その意味でも、今回のこのプロジェクトは、計り知れないほどの意義があるだろう。
 一般公開は今日だけだが、ワークショップそのものは7日まで行われることになっている。主催は昭和音大と東京芸大、ドイツ文化センター。

 なお、二期会の方からの公式発表は未だ無いが、コンヴィチュニーは来年と2013年に二期会でオペラ・プロジェクトを行なうことになっていると自ら語っていた。 

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