2019-06

2・22(日)チョン・ミョンフン指揮のヴェルディ「レクィエム」

  オーチャードホール

 東京フィルの定期公演、近来の超快演。
 これほどすべての演奏者の水準が高く、しかも完璧なバランスが保持されたコンサートも稀ではなかろうか。指揮者、オーケストラ、合唱、すべてが緊密に交錯し、堅固で劇的な「レクィエム」を構築していた。

 チョン・ミョンフンは、これまでにも日本でヴェルディの「レクィエム」の名演を一度ならず聴かせている。だが今回の演奏は、以前のそれをすら上回るものと称しても過言ではないだろう。
 壮絶に激しく沸き立ちながらも、きりりと引き締まった直線的な音楽の躍動が全曲を貫き、そこには一分の隙もない緊迫感があふれる。「怒りの日」はもちろん、「サンクトゥス」においてさえ、合唱もオーケストラも切り裂くような鋭角的な表情を示していて、それが息詰まるほどの緊張を生んでいるのだ。特に最後の「リベラ・メ」終結近くでは、身の毛のよだつようなクライマックスが築かれていた。

 これらを含め、演奏は――いうまでもなくヴェルディの「レクィエム」そのものが――単なる一つの宗教における祈りといったものを超越した、むしろ普遍的な人間のドラマという世界を感じさせる。チョンのこの驚くべき集中力に富む激烈な指揮に、今日の東京フィルは完璧に応えていた。このオーケストラの、近来屈指の快演である。

 そして今日の演奏の成功の一因は、充実した声楽陣にもあるだろう。
 まず、東京オペラシンガーズ(合唱指揮・宮松重紀)の、驚異的にドラマティックな表現力と、揺るぎないアンサンブル。この合唱団の力量には、サイトウ・キネン・フェスティバル他のオペラや演奏会などで度々感心させられているが、今日の迫力は図抜けて凄かった。響きがやや硬質で、強すぎる傾向なきにしもあらず――ではあったが、それはチョンの意図に応えたものであったろう。

 成功要因のもう一つは、優れた声楽ソリストたちだ。
 ソプラノのカルメラ・レミージョの声は輝かしく、美しい高音を聴かせた。アルトの藤村実穂子の陰翳に富んだ歌唱もすばらしく、出番が多く重要なこのソロ・パートで気を吐いた。テノールのキム・ウキョンは、笑顔の朝青龍といった感じで、その声の澄んだ力強さは実に魅力に富んでいる。バスのロベルト・スカンディウッツィは、これはもう練達の名手という雰囲気で、手に持ったスコアも開くことなく、全曲を暗譜で朗々と歌い上げていた。

 かように充実した演奏会であったが、瑕疵があったとすればそれは演奏そのものでなく、まず舞台方面から聞こえた、ホールの空調かなにかの回転音らしき連続ノイズ。全曲冒頭、やっと聞き取れるほどの最弱音で演奏が開始される個所で、それを邪魔するほどの音量で響いていた。天下のオーチャードホールともあろうものが、どうしたことだろう。それに、またもや多くの聴衆が内心舌打ちしたであろう、1階席中央あたりからけたたましく起こった非常識なフライング拍手。
    音楽の友4月号(3月18日発売)演奏会評

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