2019-09

2・12(木)二期会「椿姫」 アッレマンディ指揮 宮本亜門演出

   東京文化会館大ホール

 宮本亜門が演出を担当していることが今回の話題の一つ。以前の「ドン・ジョヴァンニ」や「コジ・ファン・トゥッテ」などと同様、軽くひねった手法を見せたことは予想されたとおり。

 最近の流行りともいうべき暴力的な演技が随所に見られる。第1幕などはアルフレードとドゥフォール男爵のいがみ合いの連続で、片方が相手を殴り倒す場面まである。アルフレードが頭に血の上りやすい単純な性格であることを伏線的に描くなら、これは意味があるだろう。
 もっとも、ドゥフォール男爵をあれだけ暴力団か成金のボスみたいにして目立たせるからには、それを伏線として後半で何か特別な役割を担わすのかと思ったが、それは特に見られなかった。

 ヴィオレッタにしても、このドゥフォールのごときガラの悪い男をヒモにしていたことからしてお里が知れる――というのが、この演出における「伏線」なのかもしれない。
 ヴィオレッタには、常に「娼婦」の過去が付きまとう。第2幕のパーティの場で、逆上したアルフレードが札束をヴィオレッタにたたきつける行動はオリジナルのト書きにもあるもので、これは彼がヴィオレッタを娼婦として罵倒する意味合いをこめた重要な演技でもあるが、今回の演出ではそれに先立つ場面で、アルフレードの父親ジョルジョ・ジェルモンが彼女にカネ(札束)を握らせて身を引かせようとする場面があり、これも「娼婦=カネ」のモティーフを想起させる演技として意味を持っているだろう。

 このジョルジョとヴィオレッタのやりとりの場面でも、彼が彼女の腕を掴んだり引き据えたりするなどの暴力的な行動がしばしば見られたが、これならいっそ字幕の方も伝統的な「です=ます調」より、彼女への軽侮を剥き出しにした荒っぽい訳語を使用した方が迫力も出たであろう。字幕も演出の一部なのだから。

 歌手たちもこれらの微細な演技をよくこなしていた。いわゆるオペラ的な、両手を拡げて客席を向いて歌うという陳腐な身振りを見せる歌手がいなかったのもありがたい。
 ただし第3幕で、重病で頭も上がらないはずのヴィオレッタがやたら舞台をあちこち走り回っているのだけは、いかがなものか。昔、ヴィーラント・ワーグナーの演出した「トリスタン」の幕切れでイゾルデが倒れて死なないのに驚きの声が上がった時、「音楽自体が死を表わしているのだから、本人は倒れなくてもいいのだ」という弁護がドイツであったらしいが、どうみても詭弁だろう。説明するだけ野暮である。――舞台上に絶えず荒々しい「動き」がなくては済まないという「流行の」演出では、やはりこのテを取り入れたくなるのだろうか。

 澤畑恵美のヴィオレッタは、第1幕の最初ではやはり声質が柔らかすぎるかと思われたが、次第に力を増して行った。私は彼女のこの役は初めて観たのだが、こういう汚れ役的なヴィオレッタも魅力的だ。ただ第3幕では、忙しい動きとは対照的に、声は時々、その病状の進行を表わすようになることがあったが、――もちろんそれも演出でしょうね? アルフレードの樋口達哉、ジェルモンの小森輝彦、いずれも健闘だが、2日目にはもっと良くなるだろうと思わせる個所もある。

 最も気に入ったのは、指揮者アントネッロ・アッレマンディのテンポだ。歌手の一部にはそのテンポについて行けない人もいたようだが、そのかみのトスカニーニやセラフィンの指揮と同様、このくらいのドラマティックな速めのテンポで演奏されないと、このオペラは緊迫感を失う。

 装置は松井るみ、照明は沢田祐二。舞台が上手上がりに軽く傾斜しているなどというのは、さほど珍しい手法ではない。
 装置を含めた演出には、すでに欧州で上演された舞台からヒントを得たと思わせるものも少なからず見られるが、それ自体は一向構わない。議論されるべきは、その出来が良いかどうかということだ。

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