2019-09

2.6(金)フランス・ブリュッヘン指揮新日本フィルの「天地創造」

   トリフォニーホール

 ブリュッヘンは、いつものように前屈みの姿勢でゆっくり登場し、聴衆の少し心配げな注視の裡に、非常に高い段差のある指揮台に危なっかしく上がって、椅子に腰掛ける。
 ソリストのうち、デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソンは、その指揮台の上に譜面を拡げて眺めたり、「虫は地を這う」と歌いながら指で虫をつまんでみせるジェスチュアをしたりと、余裕のステージ姿だ。マリン・ハルテリウスは終始ニコニコと他の歌手や歌詞に反応しつつ、実に楽しそうに歌う。ジョン・マーク・エインズリーは貫禄で、先頃ウィーンで観た「死者の家から」のスクラトフ役でのパンツ1枚で狂乱していたあの姿が可笑しく思い出されるほどの落ち着きぶり。
 ――これらの名歌手たちは、いずれもブリュッヘンの指名により招聘されたという。今回の演奏を充実させた功労者たちである。

 ブリュッヘンが自信満々の裡に始めた「ハイドン・プロジェクト」の初日を飾ったのがこの「天地創造」だ。期待に違わず、ヒューマンな音楽に溢れていた。物語に応じての芝居気や誇張などは一切なく、ひたすら心をこめて淡々と語って行くタイプの演奏だが、音楽が実に温かい。弦がノン・ヴィブラート奏法ながら14型という比較的大きな編成で柔らかい音を出しているため、豊かな厚みのある響きが生れているともいえよう。新日本フィルは、日頃のアルミンクとの共同作業のたまものか、こういった清楚明晰な演奏の領域では非常な強みを発揮する。

 かように第1部と第2部は見事な演奏だったが、このような飾り気のない指揮の場合には、第3部の音楽の構築面での本来の弱さが露呈してしまうのは仕方のないところなのだろうか。
 なおブリュッヘンは、最終合唱の頂点における華麗な声楽パートを、ソリストたちにでなく、合唱(栗友会合唱団)のソリに歌わせる版を使用していた。が、ここはやはりソリストたちの妙技で聴かせてもらった方が私は好きだ。合唱団のソリもよくやっていたが、ソプラニの最初のところで一瞬ヒヤリとさせられたのは事実。だが、ハルテリウスがまたニコニコと彼女らを振り返り、演奏終了後に拍手を贈っていた光景が印象的だった。

 いい演奏だったのに、客席の拍手が意外に薄い。特に1階の客の半数以上は、手先を動かすだけだったり、黙って身じろぎもせず舞台を眺めているだけだったり。どういう人たちなのだろう? 上階席から飛ぶブラヴォーの声が救いだった。


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