2021-06

2021・4・6(火)カーチュン・ウォン指揮読売日本交響楽団

      サントリーホール  7時

 シンガポール出身の注目の若手指揮者カーチュン・ウォン(ウォン・カーチュン?)、近年、日本のオーケストラをたびたび指揮して好評を得ている人だが、私はどういうわけかこれまでタイミングが合わず、聞き逃してばかりいた。今回、漸くその本領に接することができた次第である。

 彼が今日指揮したのは、細川俊夫の「瞑想~3月11日の津波の犠牲者に捧げる」、デュティユーの「ヴァイオリン協奏曲《夢の樹》」(ソリストは諏訪内晶子)、マーラーの「葬礼」と「交響曲第10番」の「アダージョ」というプログラム。
 コンサートマスターは小森谷巧。

 これは4月定期で、本来はシルヴァン・カンブルランが振るはずだったのを、彼の来日が果たせなかったため、カーチュン・ウォンが代役で登場したわけである。前半2曲は当初の予定通りのもの、後半の2曲がウォンの選曲によるものだった。

 それにしてもこの4曲、どれもこれも、物凄い濃密さである。
 細川の「瞑想」は、彼の作品としては━━そのテーマに相応しく━━鋭角的で厳しい。長いパウゼを挟んで叩きつけられる大太鼓の轟音は、もしこの日、マーラーの「第10交響曲」が補作版で全曲演奏されていたら、その第4楽章の遠いエコーだったように感じられたかもしれない。
 そしてデュティユーのコンチェルトは、その本来の輝かしさやユーモアを含んだ曲想に対し、諏訪内晶子のシリアスで透徹したソロにより、むしろ突き詰めたような緊迫した演奏となっていた。

 その重量感溢れる前半の2曲に加え、後半はさらにマーラー2曲である。アタッカで切れ目なしに、「対の2曲」という形で演奏されたことは、当を得ていたと言えるだろう。ただ、弦の編成があまり大きくなかった所為もあってか、「アダージョ」の方は澄んだ細身の、室内楽的な音色を感じさせた。
 ウォンのマーラーをこれまで他に聴いたことがないのだが、もしや彼の狙いは、マーラーの持つ後期ロマン派の濃厚な世界の部分を引きはがし、その内側にある鋭角的で清澄な様相を浮き彫りにすることにあるのだろうか。そういう意図があったのなら、この「アダージョ」の演奏は、納得の行くものであった。

 だがしかし、━━「葬礼」の方は、そういうアプローチでは、必ずしもうまく行くとは思えない。マーラーがのちにこれを「復活」第1楽章に転用する際に手を加えた版と違い、良くも悪くも雑多な興奮、怒号、哀愁、悲劇性といったものを感じさせるこの旧版の「葬礼」の方は、そうなると、何か欠点ばかりが目立ってしまうように感じられてしまうのである━━これはあくまでも私の感想だが。

コメント

注目しています。

カーチュン・ウォンの実演に初めて接したのは、2019年11月に兵庫芸術文化センター管を指揮したマーラー「巨人」でしたが、絶妙なニュアンスを感じさせるセンスの良さ、音楽表現の巧みさが印象も残りました。

この時、前半のショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番の演奏中、ソリスト(アントニオ・メネセス)の弦が切れるというアクシデントがあり、しばらく演奏が中断したのですが、そこでマイクを持って舞台に登場、なかなか流ちょうな日本語で即席トークを行い、聴衆を笑いに誘いながら場をつないでくれました。そのようなサービス精神も含め、小生の高く評価する若手指揮者の一人です。

彼の指揮は、まず精緻で情報量が多い。それでいて、音楽の流れ、構成感・バランスが損なわれることは決してなく、生き生きとした躍動感に溢れる音楽を聴かせてくれるように思います(その意味において、今回のマーラーについては、彼ならもっと凄い演奏ができたようにも思いました)。

ネット上の情報によると、奥様が日本人とのこと。だから、日本語も上手だし、この時期に比較的容易に入国できたのでしょうが、このような才能溢れる若手指揮者と日本のオケの共演に多く接することができるというのは、今回のコロナ禍の中での数少ない僥倖の一つですね。若きマエストロの今後の活躍に引き続き注目していきたいと思います。

私も先生と同じく、最近の評判に興味を持ちつつ初めてのカーチュンでした。前半の2曲では引き締まった演奏、精緻なアンサンブルを引き出す彼の指揮に感心し、後半のマーラーに期待を抱かせました。が、私は10番のほうが特に、スッキリし過ぎていたように感じました。アタッカで入ることの効果も案外で、その瞬間からふっと空気が変わって、濃密な音の中になんとも美しい世界が拡がるようなイメージを思い描いていましたが、ちょっと違ったかなと。でもプログラム全体では彼の魅力は存分に感じられましたし、 機会があればまた聴いてみたいです。

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