2021-06

2021・3・20(土)大井剛史指揮群馬交響楽団

    高崎芸術劇場大劇場  6時45分

 ロビーの窓際の高い椅子に掛けて開演を待っていると、何故か椅子が急にグラリグラリと揺れ始めた。貧乏ゆすりは私の昔からの悪癖だが、やってはいないはずだし・・・・と周囲を見回すと、皆がきょろきょろしながら顔を見合わせたりしている。これが6時10分頃のこと。高崎ではその程度で済んだわけだが・・・・。

 群響の第566回定期演奏会は、大井剛史の客演指揮で、マーラー編によるシューマンの「マンフレッド」序曲と、マーラー自身の「交響曲第6番《悲劇的》」。コンサートマスターは前者が群響の伊藤文乃、後者が客演の福田俊一郎。

 大井剛史がこういう大きなシンフォニーを指揮するのを一度聴いてみたい、と以前から思っていた(彼が滅多に振らないからだ)。しかも今回はマーラー版の「マンフレッド」などという珍曲がプログラムに入っているし、それにこの新しい大きなホールで大編成の群響の音を聴いてみたい━━などという興味に駆られ、サントリーホールでの都響公演が終ってすぐにこちらへ駆けつけた次第である。
 そして、来た甲斐は充分にあった。

 シューマンの「マンフレッド」序曲のマーラー版というのは初めて聴いた。楽曲の構築はそのままに、楽器編成と各パートに少し変更を加えたシロモノだ。度肝を抜かれたのは、曲の冒頭にシンバルの一撃が入るという、途方もない改変である。シンバルはそれ一度だけだが、これがその後の曲中で本当に必然性を証明したかどうか、かりにそれを探し出しても、所詮はこじつけの範囲に留まる程度のものだろう。マーラーは、指揮者としては古今独歩の名匠だったかもしれないが、相変わらず余計なことをするお人である。シューマンにはシューマンの、独自の魅力的な芸風があるのであり、他人が口を挟む筋合いはない。

 他人の作品でなく、自作でやりたい放題やるのなら、大いに結構だ。休憩後はそのマーラー自身の長大な「第6交響曲」。何度聴いても物凄い曲である。今回は第2楽章に「アンダンテ・モデラート」の楽章を置き、第3楽章にスケルツォを持って来る配列が採られた。第4楽章のハンマーは2回。

 大井剛史の指揮は、何の外連もない、率直で真摯なものだ。マーラーが総譜に書き込んだ事細かなテンポや表情の変化の指示などをさほど強調しないので(少なくともそのように聞こえる)、所謂神経質なマーラー像にはならないが、作品自体が図抜けて雄弁な性格を持っているので、そうした指揮もいい方に生きて来る。少なくともこの演奏は、前半の「マンフレッド」よりは遥かに成功していただろう。
 そういう意味では、彼の指揮は作品によって向き不向きが生じるだろうが、いずれにせよ真正面から作品に取り組んでいる姿勢はいい。

 大井は、基本的に速めのテンポで、ひたすら押しに押す。この曲のエネルジーコな性格を充分に発揮させた演奏である。特にリズム感がいいので、聴いていると快いほどである。
 ただ、欲を言えば、勢いに乗ってオーケストラを咆哮させるのも結構だが、長大な音楽の構築の中に、大きな起伏感がもっと欲しい。第4楽章など、這い上がっては打ちのめされる「英雄」の、その昂揚感と絶望感、狂乱と沈潜━━といったような対比が更に浮き彫りにされて欲しかった。だが、その第4楽章の何個所かで、彼がオーケストラから引き出していた、温かく柔らかい響きには、はっとさせられた。
 シンフォニーでの彼の指揮は誠実で、造りも丁寧だし、作曲家や作品にもよるだろうけれども、基本的には結構いいのではないかと思われる。他のレパートリーも、いろいろ聴いてみたいところだ。

 群響は、この新しい、空間的にもたっぷりと余裕のあるホールを得て、大編成のシンフォニーをも楽々と響かせる余裕を感じさせるようになった。今日は第1ヴァイオリンにもう少し人数が欲しいところだったが、コントラバスが強力で、重心もしっかりしているので、響きの安定感という点では問題なかったと思われる。1階17列18番の席で聴いた限り、全体は極めてバランスの良い音に聞こえた。

 あの旧い音楽センターだったら、今回のような豪壮雄大な音響は望むべくもなかったろう。群響はいいホールを得た。今後はレパートリーもいっそう多彩になって行くだろうし、群響自体の「音」も変わって行くだろう。ホールも竣工からまだ日も浅く、音も少し硬めだが、これから鳴らし込むにつれて音はだんだん温かくなり、数年経てば更にいい味が出て来るはずである。

 8時45分終演。9時台半ばに来た北陸新幹線に飛び乗って帰京。東北新幹線が運転見合わせになっていたことを知ったのはその時になってからだった。

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