2021-06

2021・1・6(水)東京二期会 サン=サーンス「サムソンとデリラ」

       Bunkamuraオーチャードホール  7時

 松の内に「サムソンとデリラ」とは何か物凄いが、これは昨年上演されるはずだった「二期会コンチェルタンテ・シリーズ」の一環で、新型コロナ禍のため延期になっていたものだ。

 セミ・ステージ形式上演で、オーケストラはステージの上に通常の形で並び、ソロ歌手陣は舞台前面で必要程度の演技を行ないながら歌い、合唱団(人数は多くないが音量は充分)はオーケストラ後方の高い位置に並ぶ。
 この合唱団は照明により色彩明暗が変化する紗幕に包まれており、それが背景全体を覆いつつ変化する装飾的な映像と相まって、神秘的なイメージを生む。つまりコーラスは影のような存在として響いて来るというわけで、この手法は成功していると思われる。

 それに加え、マキシム・パスカルの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏が抑制気味の、抒情的要素の勝ったものだったので、この作品がオペラというよりむしろ劇的オラトリオといった性格で再現されているように感じさせる。
 しかし、そうではあっても、それは悪い解釈ではなかろう。第1幕前半など、もともとその性格が強い音楽だ。暗黒の中から湧き上がって来る民衆の苦悩の声と重苦しいオーケストラの響きは、のちのオネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」の先駆のようにさえ思われる。この合唱は二期会合唱団。舞台構成は飯塚励生。

 配役はダブルキャストで、2日目の今日は、福井敬(サムソン)、池田香織(デリラ)、小森輝彦(大司祭)、ジョン・ハオ(アビメレク)、妻屋秀和(老ヘブライ人)、伊藤潤(ペリシテ人の使者)、市川浩平&高崎翔平(ペリシテ人)━━という強力な顔ぶれだ。

 オケがあまり大きな音を出さない上に、ソロ歌手全員は舞台手前で歌うので、だれの声もビンビンと響き渡る。
 とりわけ強靱無比の声で際立つのはサムソン役の福井敬である。彼のサムソンはかなり前、大阪で大植英次の指揮する演奏会形式上演でも聴いたことがあり、その頃よりは少し声が太くなっているようにも思えるが、パワーは相変わらず充分である。ただ、些か力一辺倒の表現のように感じられないでもなく、部分的に細かいニュアンスが伴う歌い方でもいいと思うのだが━━。

 かたやデリラ役の池田香織の歌唱も、もはや完璧の域に達しているだろう。あのイゾルデ(2016年9月17日の項)で大ブレイクして以来の彼女は、本当に何を歌っても天馬空を行くが如きの快調ぶりだ。今回の彼女のデリラは、豊満で官能的なデリラというよりは知的で優しいデリラという雰囲気だったが、ただ、もう少し━━特に後半━━悪女的な歌唱表現も欲しいところではあった。内心ではサムソンを最後まで愛していたことを表す狙いがあったとも思えないので。

 2回の休憩を含み、終演は9時45分となった。正月なのだから、開演をもう30分繰り上げてもよかっただろう。都内の新型コロナ感染者数激増に対して緊急事態宣言も明日には実施されるという状況の中、この終演時刻は如何にも遅く感じられるようになったのは事実である。
 それでも、こんな状況にあっても、客席はほぼ5割~6割程度は埋まっているというのだから、熱心なお客さんがいるものだ。頼もしいといえば頼もしい。

 だが、ロビーで遇った某楽団の事務局スタッフは、(緊急事態になると)また前の(入場制限の)ようなことになってしまう、と暗い顔をしていた。

コメント

 先生のご意見に同感です。台本にやや難もある作品のようにも思いましたが、日本では貴重かつ稀少な、この作品の上演。状況が状況なので仕方がないとは言え、できれば、5、6割と言わず、もっと多くの方々に見ていただきたかったと思いました。

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