2021-06

2020・11・28(土)オペラ仕立ての「ヴォルフ イタリア歌曲集」

       東京文化会館小ホール  3時

 都響の2曲を聴き終ったのが2時50分頃。直ちに隣の小ホールへ移動してこの奇想天外な公演を聴く。
 もう1時間半、せめて1時間でもこの開演時間があとにずれていれば、2つのコンサートをたっぷり聴ける人も少なくなかったろうに。こちらは東京文化会館の主催だし、都響は都のオーケストラだし、同じ「東京都」なのだからその辺何とかならなかったのかね、と。ただし、こちらの方はほぼ満席だったから、大ホールから客がどっと流れて来ても、入るのは無理だったに違いないが。

 それはともかく、この「歌劇 ヴォルフのイタリア歌曲集」なる企画は、大変ユニークなもので、そのアイディアも、出来栄えも実に面白かった。
 つまり、ヴォルフの「イタリア歌曲集」46曲を、歌詞の内容が一つのストーリーとして繋がるように、しかも調性にも配慮して配列し、その物語を、若干の小道具を交えたシンプルかつ清涼な舞台で、2人の歌手と2人のダンサーが演じて行く━━という形なのである。

 ストーリーは、愛の語らいや口論で織りなされた、美しい、時にはコミカルになる恋のドラマだ。解説書によれば「イタリアのとある町で、思春期の夢見がちな少女と不器用な少年が出会い、恋に落ちる」という設定である。
 冒頭2曲目に「もう、ずっと長い間待ち焦がれていた」を置き、「誰があんたをここへ呼んだの?」という口喧嘩で第1部を終り、第2部を「笑っていられるか」「何を怒ってるの?」「あんな鼻持ちならない女、放っておけ」などの曲で開始するといった構成には、なるほどと思った。

 もっとも、仲直りしたあとにこの少年は戦場に赴き戦死したものと思われるが、「君が僕を見て微笑み」による永遠の愛で結ぶと思いきや、最終曲に「ペンナに私の恋人がいる」を置き、少女を再び別の陽気な恋に向かわせ、少年ががっくりとずっこける━━この辺の解釈は観る人により違うかもしれない━━というオチをつけるのだから洒落ている。

 歌は小森輝彦(Br)、老田裕子(S)、ピアノが井出徳彦、ダンスは山本裕、船木こころ。演奏もダンスも極めてしっかりしているから、岩田達宗による演出と構成(選曲も!)がいっそう映える。

 今回の企画は成功といえよう。歌曲はそれ1曲ずつが凝縮されたオペラである、ということは私も昔から感じていたことだが、それらを連鎖した形で更なるオペラ的な世界に拡げる、というアイディアも面白い。以前試みられたような、武満徹のいくつかの作品を配列構築してオペラに仕上げるという手法とは全く異なるスタイルだが、発想の勝利といえよう。

 岩田達宗さんのその発想の背景には、「肥大化、巨大化、成長といったお伽噺に強迫されて来た世界が、新型コロナウィルスによってその動きにストップがかけられた」こと、「肥大化されたオペラは上演できなくなったが、しかし、(歌曲のような)小さなものはしぶといのだ」という思想があるという。
 確かに、もしかしたらこの考え方は、第1次世界大戦による世界変貌の中に、肥大化・巨大化した後期ロマン派への反動が芽生え、ストラヴィンスキーが小編成の清澄な響きによるオーケストラを活用し━━つまりあの「新古典主義」を推進させて行った歴史と、軌を一にするものかもしれない。

コメント

ご来場とご高覧を賜り、また身に余る御文を頂戴し感謝にたえません。変わらぬ慧眼には今回も頭が下がるばかりです。有難うございました。
この企画は長い間、多くの劇場やプロダクションから門前払いをくった企画でした。関西のプリマドンナ尾崎比佐子さんがこの曲順での演奏をリサイタルとして演奏してくれた以外は全く陽の目を見ることはありませんでした。
しかし今回、東京文化会館が初めて、是非やろう、と応えてくれて実現したものです。
しかし、そんな初めてのことだらけで、実際は反省だらけの公演です。次回は修正してより美しい、より豊かな舞台をお届けしたいと思います。
有難うございました。心からの感謝を込めて。

昨年に拝聴した数々の演奏会、オペラの内(1・2月も含む)、絶対に1つだけ、ベストの公演を選べ、と言われたら、個人的には、圧倒的に、この演奏会(オペラ)を選びたい‥舞台が全体的に白で彩られていたので、まさに「白眉」ということばがぴったりの公演でした。(どのように、その印象をことばで表現していいのかわからず、ついつい、投稿が遅れてしまいました。)
 小森、老田両氏の心温まる歌唱を中心に、岩田先生の演出も無理のなく、時にユーモアに富み、歌手の表現を更に豊かに彩る効果があったように感じました。
 特に、関西で、数々のオペラの主演、宗教曲のソリスト、ドイツものを中心としたリートのコンサート、そして元神戸市混声合唱団のソプラノパートリーダーとして、現在でも、その時のお仲間達とも重唱曲のコンサートを催すなど、とても幅広い守備範囲で、大活躍の老田さんの歌唱を関東で聴くことができたことも、大変嬉しいことでした。6月には、フェスティバルホールで、ロッシーニの「どろぼうかささぎ」にご出演(主人公、またはそれに準するお役でしょうか‥?!)予定とのことで、とても楽しみです。
 ヴォルフのこの曲集は、以前に、西宮で、以前に神戸市混声合唱団の団員だった方々4人が曲順を考慮しつつ、歌い分けたコンサートを拝聴し、感銘を受けたことがあるのですが、今回、オペラ仕立て、ダンスも絡めて、実力ある歌手、演出家によって聴くことができ、個人的に、ヴォルフへの関心を更に高まめることができました。再演を(関西地方をもふくめて)、期待したいと思います。

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