2021-06

2020・11・18(水)藤倉大の最新作オペラ「アルマゲドンの夢」世界初演

      新国立劇場オペラパレス  7時

 SF作家H.G.ウェルズ(ハーバート・ジョージ・ウェルズ)の「世界最終戦争の悪夢 A Dream of Armageddon」(1901年)を原作とし、ハリー・ロスが台本を、藤倉大が音楽を書いたオペラ「アルマゲドンの夢」。
 今回が初演で、11月15日から23日までの間に4回公演されている。今日はその2日目。

 ピットに入ったのは大野和士指揮東京フィルハーモニー交響楽団。
 歌手陣は、ピーター・タンジッツ(クーパー・ヒードン)、セス・カリコ(フォートナム・ロスコー、ジョンソン・イーヴシャム)、ジェシカ・アゾーティ(ビラ・ロッジア)、加納悦子(インスペクター)、望月哲也(歌手、冷笑者)、長峰佑典(兵士)。因みに長峰はボーイソプラノで、「TOKYO FM少年合唱団」のメンバーの由。

 スタッフはリディア・シュタイアー(演出)、バルバラ・エーネス(美術)、ウルズラ・クドルナ(衣装)、オラフ・ブレーゼ(照明)、クリストファー・コンデク(映像)。

 上演時間90分と作曲者は書いているが、実際は100分くらいだろうか。現代音楽のオペラとしてはまあこの長さが限度だろうね、と、ある現代音楽に詳しい同業者が言った。
 だが内容は、あたかも今日を予言して書かれたような物凄いものだ。猛威を振るう疫病コロナに脅え、それがきっかけで起こるかもしれぬ第3次世界大戦=世界最終戦争への恐怖さえ感じている今日のわれわれにとっては、実に不気味なオペラと言えよう。

 ドラマは現実の「電車」の中で交わされる会話から開始されるが、この現実は間もなく「夢」の世界の中に取り込まれて行く。平凡な市民クーパーと、その妻で、政治悪にも立ち向かう勇敢な意識の持主ベラは、知的な悪と感情的な悪の支配者の力の中に呑み込まれ、やがて起こった世界最終大戦争(アルマゲドン)の中に命を落す。

 この演出では、ベラが夢の世界の中で斃れるのに対し、クーパーは現実の電車の中で死ぬ(彼自身は冒頭で「おれは夢の中で死んだ」と語っている)が、その電車の中もまた死屍累々といった状態だ。現実の世界も既にアルマゲドンに呑み込まれてしまっていたのか? 
 解釈を観客に委ねた幕切れが恐怖感をそそり、ボーイソプラノと遠いコーラスが響かせる「アーメン」の歌が強い余韻を残す。

 音楽は鮮烈だが、耳あたりはいい。愛の場面の音楽や海岸の場面の音楽のように官能的な叙情性も備える一方、極めて多彩な表現力を持ち、戦争の場面などでは雄弁な描写性も聴かせている。
 舞台もなかなか大がかりで、セリなどの舞台機構も活用されているが、これは新国立劇場としては久しぶりのものだろう。照明の使い方、反射ガラスの活用法も巧い。

 ともあれこの「アルマゲドンの夢」は、新国立劇場が制作した舞台としては久しぶりに世界に通用するプロダクションであり、大野和士がオペラ部門芸術監督として生み出した傑作と言えるのではないか。先頃の「夏の夜の夢」に続き、新国立劇場の今シーズンのオペラは良い滑り出しを見せているようだ。

 台本は英語で、英語と日本語の字幕がつく。日本語字幕(小田島創志、増田恵子)は補足語も多く織り込んだ非常に説明的なものになっていたが、こういう訳文になるのかな、と、後半は英語版の字幕と見比べながら考えこんでいた。

コメント

 私も、昨秋に拝見、拝聴した公演の中では、特筆すべきものの一つ、と考えています。最初の電車のシーンから、こんなのあり得ないよ‥という感じの設定で、びっくりさせられましたが、全体として物語もよくできていると感じましたし、舞台の工夫、藤倉氏の音楽、大野先生の演奏が各場面に、よくマッチし、わかりやすいものになっていたと思いました。
 また、とりわけ印象深かったのは、日本人キャスト、加納、望月両氏の好演です。特に、望月氏は変わった役柄2役でしたが、丁寧な語り口、悲哀を感じさせる歌唱が印象的で、氏の実力の高さ、奥深さに改めて感服しました。FM TOKYOの合唱団の少年も、こうした難解で、緊張感の強い内容の作品で、加えて、稽古も様々な制約の中で大変だったと思いますが、本当によく頑張ったと思います。
 今回の成功に続き、できれば、もう少しフラットで楽しい内容の作品でも新作が成功できるように、新国立に期待したいです。

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