2019-08

12・23(火)プッチーニ:「トゥーランドット」

  ベルリン州立歌劇場

 2003年9月にプレミエされたドリス・デリエの演出で、これもベルリンではすこぶる評判が良いらしい。第3幕後半にルチアーノ・ベリオ補作版が使われた上演は、ドイツではこのプロダクションが最初だった由。

 とにかくまあ、スペクタクルでマンガ的な、実に賑やかな舞台だ。
 冒頭からして、背景に佇立する骸骨の集団、赤い仮面をかぶった異形の群集、ウルトラマン映画さながらの怪獣の扮装による廷臣ピン、パン、ポンらが跳梁跋扈するといった具合。
 トゥーランドット姫は白い大きな熊か何かのヌイグルミの腹の中に住み、白いヌイグルミを抱き、黒い衣装を纏って刀を振り回す珍奇な女である。

 人間の姿をしているのはカラフとリューの2人だけだが、そのカラフは、巨大な携帯電話によじ登ってトゥーランドットを呼び出したり、3つの謎の正解をその画面上に引き出したりする。
 リューはえらく気の強い金髪の女で、激しい身振りでトゥーランドットを諌めるというのは悪くないにしても、正義感に燃えて殉教するキリスト教伝道師(十字架が描かれたガウンを着ている)といった設定なのが、何かおしつけがましい。

 演技は微細で、演劇的な面白さもある。
 音楽のあまり明るくないベリオ版を使ってフィナーレをどう構築するかが見所だが、ここではカラフがトゥーランドットの持っていたヌイグルミを奪って捨て、黒い衣装を脱がせ、背景に出現した大摩天楼の夜景を指し示し(コンヴィチュニーの「アイーダ」みたいだ)、新しい世界の存在を教える。
 かくて目が覚めた彼女は、まもなく現代の女性の姿に変わり、彼とともに小さな瓦ぶきの(!)小さな家に住んで、小市民的で幸せな生活を送ることになる・・・・という段取りだ。
 このあたりの舞台は、微細に変化する音楽のニュアンスと完璧に一致した動きを示しており、なかなか良く出来ていた。

 結局これは、カラフがトゥーランドットを異常な妄想から解放し、現実の世界に引き戻すまでの物語、ということになろう。トゥーランドットの父にあたる中国皇帝が、普通の父親に戻って2人の新居を訪ねて来る、といった場面も笑いを誘う。

 こういう具合にラストシーンで「魔力からの解放」を描いた演出は、これまでの「トゥーランドット」のプロダクションでもいくつか観た記憶がある。そのうちの大部分は、群集がたった今呪縛から解放されたという表情であちこち歩き回っているようなものだったが、主役2人に動きを絞ったこのデリエ演出も要を得て面白い。
 それにしてもこのべリオ版は、大団円に持って行くことも、悲劇的に終らせることも可能な、実に上手く出来ている音楽だと感心させられる。舞台美術と衣装はベルント・レペル。秀逸だ。

 30歳の気鋭アンドリス・ネルソンズが、小気味よい指揮ぶり。最近バーミンガム市響首席になった注目株で、2010年のバイロイト・デビューも決まっている。音楽のダイナミックな幅も素晴らしく、卓越した劇的感覚の持主だ。プッチーニのこの作品を、これほど良い曲だと思えたのは久しぶりである。
 今回のライジング・スター指揮者探索旅行は、実りが多いものだった。

 カラフ役のフランク・ポレッタもかなり力があったが、トゥーランドットを歌ったシルヴィ・ヴァレール Sylvie Valayre は小柄な体躯ながら良く通る声で、ドラマティックな表現力も申し分なかった。いわゆる女傑的でない雰囲気の、しかも優れた声を持ったトゥーランドットとして、これは貴重な存在であろう。リューはAdriane Queiroz、ティムールはアンドレアス・バウアー。

 ベルリン州立歌劇場からやや西、フンボルト大学前からブランデンブルク門にかけ、ウンター・デン・リンデンの並木にはクリスマスの燭光が飾りつけられて、美しい。フリードリヒ街にも明るいデコレーションが施されている。旧東ベルリンの街も、それなりにせいいっぱいクリスマスを祝っているという印象だ。もっとも、オペラが終る10時頃になると、もう人出もまばらになる。

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