2021-06

2020・8・17(月)藤原歌劇団公演 ビゼー:「カルメン」3日目

       テアトロ・ジーリオ・ショウワ(昭和音楽大学) 2時

 ついにオペラの公開舞台上演再開に踏み切ったか、思い切ったことをやるな、と感心していたのだが、実際にはオーケストラをステージ上に乗せ、合唱をその後方の高い位置に並ばせ、主役人物たちの演技は舞台前面(かなりのスペースを取っている)で行なわせるという上演スタイルの「カルメン」だった。

 だが、制作関係者が「セミステージよりもっと凝った形だよ」と言っていた通り、なるほど、岩田達宗のこの演出では、舞台前方に限られた演技空間ではあっても、衣装も、登場人物たちの演技も、充分にリアルなものだった。
 エスカミーリョとドン・ホセの決闘シーンにも、岩田流の巧みな解釈による演技がちゃんと織り込まれていたし、ホセがカルメンを刺殺するくだりも、なかなか凝ったものであった。衣装を着けたダンサーたちも登場する。

 第3幕で銃を持った男たちがやたらウロチョロするのは、この演技空間においては少々煩わしかったが、しかし黙役でもそれだけ多数の人物が登場する舞台だった、ということである。数枚の大きな透明アクリル板を小道具として利用しているのも、巧いアイディアと言えよう。
 なお、第1幕での子供たちの行進場面と音楽は省略されていたが、これはやむを得ないことだろう。

 出演は、鈴木恵里奈指揮テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ、藤原歌劇団合唱部。
 配役はダブルキャストで、今日は初日(15日)と同じ顔ぶれ━━桜井万祐子(カルメン)、藤田卓也(ドン・ホセ)、井出壮志朗(エスカミーリョ)、伊藤晴(ミカエラ)、東原貞彦(スニガ)、大野浩司(モラレス)、山口佳子(フラスキータ)、増田弓(メルセデス)、押川浩士(ダンカイロ)、及川尚志(レメンダード)という皆さんである。ダンスは平富恵スペイン舞踊団。

 題名役の桜井万祐子を聴いたのは、私は実は今回が初めてなのだが、声の伸びもいいし、好感を呼ぶ歌唱だ。カルメンとしては少々品がいい感もあるけれども、今回の演技空間においてそれを云々するのは早計かもしれない。ただ、ロマの女性の扮装をしている時には「それらしい」雰囲気を出していたものの、第4幕で白い結婚衣装を着けて出て来た途端にカルメンの雰囲気がなくなってしまったのは、演出の所為もあろうが、ひと工夫欲しいところではあった。
 ドン・ホセ役の藤田卓也はもちろん良く、ミカエラ役の伊藤晴は注目株である。

 今回は、歌手全員が透明なフェイスシールド(というのか?)を付けて歌っていた。声がくぐもるかどうかが問題だったが、これはどうやら歌手によって、また声の音域や強弱によって変わって来るようである。つまり、声の響きが気になる瞬間と、全く正常に感じられる時とが、交錯するのだ。従って、一概にどうのこうのとは、言い難い。

 オーケストラもそれなりに健闘していたと思うが、指揮にはもう少し起伏が欲しいところである。どのナンバーも同じような調子で演奏されるので、音楽にドラマティックな変化や緊張感が生まれないのだ。致命的だったのは「カルタの歌」で、オーケストラに委ねられているはずの不気味な不安、予感、恐怖感などが全く描かれずに終っていたのが残念であった。

コメント

8月17日 藤原歌劇団「カルメン」

コロナ禍の中、さまざまな工夫を重ね、本格的なオペラ公演が再開されたことを喜びたい。

第1幕冒頭の合唱からモラレスのソロまではフェイスシールドがかなり気になるくぐもった声の歌唱。「このまま続くと耐えられないかも知れない」と思いながら聴き進む。ミカエラ登場以降はほとんど気にならなくなった。男女ともに特に高音域の歌唱はフェイスシールドとの相性は良い印象。
フェイスシールドはメガネ型のファッショナブルなもの。時々、照明の反射があることを除くと、視覚的にさほど気にならない。呼気によって曇りにくいものを模索されたのか、あるいはオペラ歌手の歌唱は常人とは違うのか、実際はその両方ではないかと推測するが、発声に対してほとんどシールドが曇らないのは感心した。

演奏は、合唱、ソリストとの難しい位置関係の問題から、時々ズレがあった。しかし、この難題にチャレンジしたのが学生オーケストラだったと思うと大いに拍手を得て良いと思えた。

小道具として、極端に背もたれが長い特徴的な椅子が使われる。バレエファンとしては、この椅子はビゼー=シチェドリン「カルメン組曲」(アルベルト・アロンソ振付・マイヤ・プリセツカヤ初演)を想起する。何らかのオマージュ意識があったかどうかは不明だが…。

演出は制約のある中、十分な工夫があったが、東条さんご指摘の通り、黙役の動きまでしっかりと指導して欲しかった。第3幕でのミカエラの聴かせどころで、1名だけ銃を極端に小刻みに動かすのでかなり気が散った。私の鑑賞日は3日目。丁寧な演技の修正を加えて欲しい。

第2幕と第4幕はスペイン舞踊団が登場し華やかさを添える。フラメンコの衣装は、半田悦子さんデザインの歌手の衣装とは別設定のようで、第2幕では統一感がない上に、フリンジ付の大きなショール(シージョ)を振り回す女性3名の躍りが強過ぎる存在感を放っていた。歌手たちから遊離しない工夫が欲しかった。一方、第4幕冒頭の躍りは、紅白の衣装とカスタネットを駆使しながらのフラメンコ独特の切れの良い躍りが美しく、闘牛の日の華やかな雰囲気を演出していて効果的(もっとも、ここは個人的にはオーケストラの演奏だけを聞きたいパート)。

子どもをリスクにさらさないとの判断で第1幕の子どもの合唱の省略はやむを得ないが、第4幕の物売りの場面まで省略されていたのは残念。
オペラはそもそも上演時間が長いので、コロナ禍の中、今後もさまざまな省略を行うことが増加する懸念。実際、NISSAY OPERAの翻案版「ルチア」は積極的に省略が行われるようだ(90分・休憩なし)。

歌手は皆さん好演。ホセ役の藤田卓也さんを目的にAキャストを選択。藤田さんは2010年8月「カルメル会修道女の対話」の騎士フォルスで初めて聴いて(広島・これも岩田達宗演出)、その後しばしば聴いている。この公演でもたいへん良かった。

各アリア、幕切れでの観客の拍手はたっぷりと余韻を持っていて、気持ちの良い鑑賞環境。
一方で、藤原歌劇団公演は身内の鑑賞が多いのか、一部にリラックスし過ぎた鑑賞態度が見られるのは残念。会場に更なる緊張感、高揚感があるとなお良い。一例として、(開演までの自席での長いおしゃべりが理由で)既に客電が落ち指揮者が登場しているのに、おもむろにペットボトルからドリンクをらっぱ飲みしたり、新たにスマホ電源を入れてラインの返信を確認したり…(これらを片付ける動作や雑音は既に始まっているカルメンのBGM付きとなる)。それでいながら、カーテンコールになるとスタンディング・オベーションをやったりして。

【補足】
休憩時間はロビー/ホワイエが密になることを嫌って、自席に留まることが推奨された。これに伴って糖分のない飲み物を自席で飲んで良いとの特別ルール。前者は、真に受けるとエコノミー症候群が心配。後者は、拡大解釈して上演中も飲む人がいないかと不安。
休憩時間の軽食は「対面しないように」との注意付で容認しているところもあれば、はっきり「禁止」というところもある。また、曖昧な表現で、何となく食べて欲しくない雰囲気を醸し出している場合もある。会場、主催者毎にルールが違うとうっかり違反をするリスクがある。できれば、休憩時間の楽しみを回復するような、共通の良きルールが定着することを期待。

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