2021-06

2020・7・24(金)小山実稚恵のリサイタル再開第1弾

      横浜みなとみらいホール  2時

 「今日はコロナ自粛後5ヶ月ぶりの演奏会です・・・・生の響きをホールにいらして下さった皆様と共有できる幸せに感謝しながら、心を込めて演奏したいと思っています」という彼女自身によるメッセージが、プログラム冊子に挟み込まれていた。
 主催は神奈川芸術協会。感染防止のため間隔を取って設定された使用席数は限られていたが、スタンディング・オヴェーションのファンをはじめ、熱心な聴き手が詰めかけている。

 プログラムは、モーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」に始まり、シューベルトの「作品142の即興曲」全曲が続き、後半にはベートーヴェンの「ソナタ第30番」と「第31番」が置かれるという構成。アンコールにはシューベルトの「作品90の即興曲」から「第4番」と「第3番」が演奏され、2時間をフルに埋め尽くす演奏会となった。

 これは、私にとっても、まる4ヵ月ぶりにナマで聴くピアノ・リサイタルである。久しぶりに陶酔したことは言うまでもない。
 ホールが大きく、聴く位置も感覚的にはやや遠い場所(それでも1階21列だが)ために、彼女のピアノもいつもよりはソフトに、しかも遠く聞こえたのは事実だが、演奏には、清冽で純な美しさとあたたかい表情が溢れている。しかも、モーツァルト━シューベルト━ベートーヴェンと移り変わるそれぞれの作曲家の、音楽の性格に即した音色と響きの明確な対比は、実に見事だった。

 就中、私が注目していたのはベートーヴェンの後期のソナタだ。先頃、彼女の初のベートーヴェンのソナタのディスク「ハンマークラヴィーア」(ソニー SICC-19050)での、過度に威圧的にも攻撃的にならぬ、むしろ作品に内含されている叙情性を浮き彫りにするといった独自のアプローチに、強い興味をいだいたからである。
 今回はそれに続く「最後の3曲」のソナタの初めの2曲というわけで━━3曲やらなかったところに、何となく「予告編」のような感じを受けてしまったのだが━━いっそう注目していたわけだ。

 予想通り、一般にありがちなスタイルから離れた、つまり晦渋さや深遠ぶった表情や重厚さからも距離を置いた、瑞々しく澄み切った美しい叙情性に溢れる演奏となっていたように思う。これもまた、ベートーヴェンが晩年に到達した、純粋な透徹の世界に違いないだろう。
 その一方、強いエネルギー感も失われていない。「第30番op.109」の第3楽章後半の追い込みなど、息を呑ませる目覚ましい勢いがあったのである。

 みなとみらいホール、2階ロビーのコーヒー・カウンターが開いていたのには驚きだった。ただしCD即売会は認められなかったそうで、これにはソニー・ミュージックのKさんが落胆していた。ソニーの手腕で、CDの自動販売機でも開発したら如何?

コメント

素晴らしかったです。

2階最前列、舞台に向かって上手寄りという、コンサートグランドの音色がよく聴きとれる場所の席で拝聴。まず実に繊細なピアニッシモからホールに響きわたる豊潤なフォルティッシモまで、その圧倒的なディナーミクの幅の広さに耳を奪われました。やはり白眉は後半のベートーヴェンで、東条先生ご指摘のとおり、透明感があって実に瑞々しい、それでいて迫力にも全く欠けることのない演奏に大いに満足いたしました。

小山実稚恵さんが我が国を代表するピアニストであることは誰も否定することのできない事実でしょう。ただ、かつて彼女の演奏に接するとき、小生の個人的思いとして、その透明感のある、そして誠実さと真摯さを強く感じさせてくれる彼女の演奏をとても好ましく思いつつ、その一方で、彼女の演奏には少し健康的に過ぎるところがあるのではないか、音楽には時としてやや病的なところや狂気じみたところが必要な瞬間もあるのではないか、と(ないものねだり的な)わずかな不満を抱くことが皆無ではありませんでした。

ところが、24日の演奏を聴いて、彼女のスタイルがさらに大きく花開いたような気がいたしました。それは円熟という言葉で表されるのかもしれませんが、誠実で真摯なところは骨格として残しつつ、その上により高いレベルの芸術表現が組み立てられ、圧倒的な説得力とともに届けられました。さらに高いステージに到達されたのではないでしょうか。脱帽です。

なお、当日のパンフレットに第28番&第29番「ハンマークラヴィーア」CD(ソニー SICC-19050)販売チラシが挟み込まれていました。会場限定特典のサイン色紙のプレゼント付きで早速申し込ませていただきました(そのような巧妙な販売が行われていました・・・笑)。青柳いづみこ女史のエッセイに、クラシック音楽の世界ではCDを録音すると数百枚の買取が当然に求められ、そのCDを演奏会後のサイン会で売りさばく、といったことが書かれていましたが、サイン会兼CD即売会が開催できないのは、音楽家の皆さんにとってダブルパンチとなっていることでしょう。感染予防に細心の注意を払いながらコンサートに通い、CD販売にも協力しながら、音楽家の皆さんの活動が少しでも早く正常化するように祈っております。

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