2021-06

2020・3・12(木)アンドラーシュ・シフ・リサイタル

      東京オペラシティ コンサートホール  7時

 どの団体のサイトにも公演中止、中止の字が並ぶ。日本だけではない、スカラ座も4月初頭までの全公演が中止、METも今月いっぱい中止、パリ・オペラ座も4月半ばまでの公演が中止━━そのような惨憺たる状況の中、KAJIMOTOが敢えて予定通り実施したアンドラーシュ・シフのピアノ・リサイタルは、ナマのコンサートがいかに生命感に溢れて尊いものであるかを、われわれに改めて教えてくれるものとなった。

 思えば第2次大戦後、それも1950年代の半ば頃まで、良いクラシックのコンサートやオペラに飢えていた人々が会場に詰め掛け、立ち見まで出るほどだったことを私も少しだが記憶している。今日の状況はそれとは全く異なるにしても、とにかくナマの演奏会の「有難味」を今一度認識させられるきっかけとなったことは事実かもしれない。

 この公演も、主催者側は漫然と開催したのではなく、専門家の力を借り、このホールの空調換気の能力を確認し、ホール内のすべての場所を除菌するなど、万全の処置をした上で客入れした由。開演前に場内スピーカーを通して梶本社長が挨拶すると、客席から拍手が湧いた。続いてステージに置かれたスクリーンを通してシフもスピーチ、これも拍手を浴びた。

 もっとも、制約も少なからずあり、例えば「接触」を避けるためにプログラム冊子は配布せず、チケットもぎりも行なわず、カフェ・バーは営業せず(つまり水も飲めない)、ロビーでの客同士の歓談も「なるべく御遠慮下さい」、もちろん手の消毒とマスクの推奨━━等々、というわけだが、シフの演奏を聴きに来た人々には、そのくらいは大して気にならぬことだろう。

 今日のシフのリサイタルのプログラムは、メンデルスゾーンの「スコットランド・ソナタ」、ベートーヴェンの「ソナタ《テレーゼ》」、ブラームスの「8つの小品」と「7つの幻想曲」、バッハの「イギリス組曲第6番」というものだったが、しかしそのあとにアンコールをやることやること、バッハの「イタリア協奏曲」、ベートーヴェンの「葬送ソナタ」第1楽章、メンデルスゾーンの「甘き思い出」と「紡ぎ歌」、ブラームスの「インテルメッツォ」op.118-2、シューベルトの「ハンガリー風のメロディ」と続き、終演はついに9時40分頃になった。

 メンデルスゾーンの温かさ、ベートーヴェンの豪快なユーモア、ブラームスの滋味・・・・さしあたりこんな常套的な形容句しか出て来ないのをお許し願いたいが、とにかくそれらの多彩な性格を備えた音楽が、最後に厳しく巨大な、しかもしなやかなバッハの組曲に流れ込んで行くといった感の演奏の見事さには、心を打たれずにはいられなかった。このバッハこそは、今夜の圧巻、白眉だったろうと思う。
 ただその代わり、たくさんの━━古くはワイセンベルク、近年ではキーシンの如きか━━アンコールには些か疲労を感じてしまったのだが、しかし満員に近いお客さんたちは熱狂していた。

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