2020-04

2020・2・20(木)アンネ=ゾフィー・ムター 協奏曲の夕べ

     サントリーホール  7時

 「サントリーホール スペシャルステージ2020 アンネ=ゾフィー・ムター~ベートーヴェン生誕250年記念~」と題された4回の演奏会、その初日。
 クリスティアン・マチェレル指揮の新日本フィルを「したがえた」ムターは、ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」と「三重協奏曲」を弾き、その間にソロ・アンコールとしてバッハの「無伴奏パルティータ第2番」からの「サラバンド」を弾いた。

 濃厚艶麗なムター節が炸裂したニ長調の協奏曲は、満員の聴衆を文字通り熱狂させたが、演奏にはやや放縦なところもあり━━いや、それでは言い過ぎかもしれないから、自由な感興、とでも訂正しておこうか━━私は少々呆気にとられながら聴いていた次第だ。
 もっと言えば、彼女が指揮者の尻を叩くような演奏に聞こえてしまったのだが、これは私がこの指揮者のベートーヴェンに少々苛々していたから、そんな風に聞こえてしまったのかもしれない。

 何しろこの指揮者は━━多分今日だけのことだろうが━━オケの音量を抑え、内声部の木管の動きを抑制し、ヴァイオリン群などの高音域をくぐもった音にしてしまっていたので、冒頭の「コリオラン」序曲など、えらくひ弱なものに聞こえたのである。
 ニ長調協奏曲でも、管弦楽パートは力感のない、自己主張のない、単なる「伴奏」に堕したような響きになっていた。ただその代わり、ムターのヴァイオリンのソロを管弦楽パートの上に見事に浮き上がらせ、あの濃厚な音色を余すところなく発揮させる役目は果たしていただろうと思われる。

 しかし面白いことに、指揮者のこのオケの鳴らし方が実に効果的だったのが、「三重協奏曲ハ長調」だ。
 徹底的に高音域を抑制して中低音を分厚く響かせたサポートが、ヴァイオリン(ムター)、ピアノ(ランバート・オルキス)、チェロ(ダニエル・ミュラー=ショット)のソリを見事にクローズアップして、「オーケストラのオブリガート付きトリオ」とでもいう形をつくるのに成功していたのである。ナマ演奏で、これほどピアノがオケに消されずに響かせられた「三重協奏曲」の演奏も珍しいのではないか。

 その意味では、このマチェラルという人は、伴奏指揮者としては稀有な才能の持主であろうと思われる━━嫌味に聞こえたら御容赦ありたい。彼の指揮に慣れた新日本フィルも、「コリオラン」の時とは打って変わって、「三重協奏曲」では見事なほどの個性的な音色を響かせた。さすが上岡敏之に鍛えられたオーケストラのことだけはある。

 それにしても、この「三重協奏曲」での3人のソリストたちの演奏は圧巻だった。ミュラー=ショットの切り込むような闊達さ、オルキスの滋味豊かで温かい表情。そして何よりムターの存在感が圧倒的で、指揮者・オケも含めた全員をリードして音楽を展開して行くといった演奏だ。第1楽章の展開部の終りにかけ、みるみるテンポを速めて盛り上げて行くあたりの彼女のリーダーシップには、息を呑ませるほどの迫力が感じられたのである。
 今夜の白眉は、間違いなく、この「三重協奏曲」だった。

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