2020-07

2020・2・19(水)東京二期会 ヴェルディ:「椿姫」

     東京文化会館大ホール  6時30分

 原田諒の演出、松井るみの装置による新制作。ジャコモ・サグリパンティGiacomo Sagripanti)指揮東京都交響楽団の演奏。
 ダブルキャストの今日は初日で、大村博美(ヴィオレッタ)、城宏憲(アルフレード・ジェルモン)、今井俊輔(ジョルジョ・ジェルモン)、加賀ひとみ(フローラ)、増田弥生(アンニーナ)他。

 今回の演出家は宝塚出身の由。私は「宝塚」はほとんど観たことがないので、この人の舞台については詳しくは知らない。とはいえ、社会派ミュージカルの演出も手がけて読売演劇大賞なども取っている人というから、この「椿姫」のドラマにも、既存のオペラ演出にはなかったような何か新しいアプローチを見せてくれるのかと期待していたのだが、残念ながら期待は裏切られた。

 舞台構図だけに重きを置いたような演出で、演劇的な手法が全く見られないのである。第2部(第2幕第2部以降)では天井に巨大な鏡が設定され、人物の動きを異なった角度から視させるという趣向も採られていたが、これも単なる視覚的効果以上の意味は感じられず、単なる添え物の域にとどまったようである。

 人物は基本的に佇立したままで、歌は概して客席を向いて歌い、感情や心理の交錯などがほとんど描かれていない。ヴィオレッタはアルフレードの父親が突然現れてもとりわけ衝撃を受ける様子はなく、ジェルモンも彼女が財産を手放すために作った書類を見ても特に驚く風もない。まるで、60年前の日本のオペラを見ているような気がした。
 ただ美しい視覚効果を持つ舞台に類型的な身振りばかりする人間たちがあふれるのでは、今日のオペラ演出に問われている様々な問題の解決には役立つまい。

 今回の演出家は「演出ノート」で、「華麗な音楽の中に描かれている人間の愛や情や罪や赦しなどすべてのものをストレートに伝えたい」とし、それゆえ目新しさを狙った奇を衒うものにするのでなく「クラシカルな正調の様式美の中で・・・・濃密な人間ドラマを展開させたい」(冊子より自由に引用)と述べているけれども、今作のような手法では、真の「人間ドラマ」が表現できるとはとても思えない。
 それに、揚げ足を取るつもりはないが、音楽にすべてが描かれているというのなら、単に演奏会形式で上演すれば済むことである。

 今日のオペラ演出家は、手垢に汚れた既存のスタイルを打破するために腐心し、だれもがあれこれ実験を重ね、努力しているだろう。そこへアウトジャンルから演出家を招くのは、既存のオペラ演出家にはないような、画期的な新風を期待するがゆえのことのはずだ。それがわざわざ時計の針を戻してしまうのでは、何にもならない。ドイツオペラではあれほど実験的なスタイルにアプローチしている東京二期会が、どのようなコンセプトを以って今作のような演出を選んだのか、訝らざるを得ないのである。

 歌の方だが、大半のソロ歌手たちの声が客席に延びて来ないのは、舞台構築の所為もあったのか? ヴィオレッタがジェルモンとの場面で下手側を向いて歌った時に、急に声が舞台裏に反響したような音になったところからすると、上手側と下手側に反響板となるセットが無かったのか。

 城宏憲は2年前の「ノルマ」のポリオーネなどで伸びのいい声を聴かせていたので、アルフレードにはぴったりかと思っていたのだが、なぜか前半では声があまり聞こえて来ない。第2幕第1場のシェーナで声が擦れたところをみると、今日は本調子ではなかったようだ。大村博美はいつものように柔らかい雰囲気で味を出していたが、ヴィオレッタの切羽詰まった状況を歌い上げるには少し温かすぎたかもしれない。

 主役3人の中では、やはり今井俊輔が声を朗々と響かせ、粗野で無神経な父親という性格を表していた。カーテンコールでの拍手が他の歌手に向けられたそれと比較して圧倒的に大きかったのは、やはりオペラはこのくらいの声が欲しいよ、という観客の本音の表れだったのではないか。
 指揮者は歌手たちの声量に対応したのか、概してオーケストラの音量を抑えてしまい、そのため今回の「椿姫」は、何とも「静かな椿姫」になった。

 字幕は、文章が些か不自然だった。誰が誰にどういうニュアンスを籠めて言っているのかがあまり正確に表現されていない文体である。字幕は演出の一要素だ。工夫を願いたい。

コメント

寂しい客席

二期会がどんな客層をターゲットにしているのか良くわからないですね。今回は宝塚ファンが押し寄せると期待したのでしょうか。

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