2020-05

2019・11・13(水)河村尚子のベートーヴェン・プロジェクト第4回

       紀尾井ホール  7時

 正確なタイトルは「河村尚子 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクトVol.4(最終回)」。
 ベートーヴェンのソナタの(全集でなく)選集を4回の演奏会で取り上げて来たツィクルスの今日は最終回である。最後のソナタ3曲(第30番、第31番、第32番)が演奏された。

 デビューしてからまだ15年(初稿では「1」が脱落していました。失礼)くらいしか経っていないのにもかかわらず、彼女はすでに圧倒的な実力と人気を誇る存在である。今日の3曲でも、ベーゼンドルファーのピアノを駆使して彼女が描き出すベートーヴェンの姿は、率直で新鮮で、並外れてスケールが大きい。強靭で激烈な力が漲るが、それが鋭いアクセントを備えながらも全く神経質なものにも、乾いたものにもならず、むしろ清らかなふくよかさを湛えているように感じられるのである。
 注意深く聴いていると、随所に細かい設計と計算が施されていることに気づくが、それが鼻につくことは全くない。むしろ自然な流れの中に浸らされてしまうのだ。

 たとえば、休憩後に演奏された「第32番」。この曲での彼女の演奏には本当に驚嘆させられた。
 ほんの一例だが、第4変奏(第65小節から)に入った瞬間、まるでクライマックスへの準備かと思わせるような重々しい期待感に溢れた低音部の蠢きが開始されるが、そこで彼女が設計した起伏感の豊かさ、これから何かが始まるのではないかと思わせる強い緊張力は、実に見事だった。

 一方、その透明な明るさに富んだ音に、もう少し色彩感が加わってもいいかなと思わせるところがないでもない。しかしそんな中で、第106小節からのトリルが、これ見よがしにではなく、遠くから響く声のように、夢見るように鳴り始めるのを聴いた時には、この人の音色感覚はやはり並みのものではないな、と舌を巻かされるのである。

 彼女のピアニズムには、この先どこまで拡がるか判らないほどの無限の可能性があるだろう。彼女のリサイタルを、もう少し繁く聴きたいものである。

コメント

私も河村尚子さんが大好きですが、
彼女はデビューして五年どころではなく、
もっとキャリアがありますよ。

河村尚子さん。来年2月、毎年恒例の(大変有難い事ですが)日本フィル九州公演(大分)で聴きます。ブラームスの2番コンチェルトです。
以前TVでN響との共演を見て好感を持ち楽しみにしておりましたが、今回このような確かな評価を拝読し余計に期待が高まります。リサイタルという機会はこちらではなかなかありませんのでコンチェルトで、しかも今ピアノで一番好きとも言えるコンチェルトで楽しみたいと思います。

至福の時

河村尚子で聴く後期3大ソナタ。これを至福の時と言わずしてなんと言いましょうか、という期待感で聴き始めた30番。あれ、ちょっと不明瞭な出だし、期待しすぎかなと少し冷静になりつつ聴き進み・・・圧巻は休憩後の32番。ついにやってまいりました。自分は今幸せなのか、いや不安に心がざわついてるのかわからぬまま、えも言われぬ浮遊感に包まれ音楽に身を委ねてどこまでも流されていく・・・。今思い出してもあの30分は何だったのか・・・。これぞまさしく至福の時。

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