2020-05

2019・6・5(水)東京二期会 R・シュトラウス「サロメ」初日

     東京文化会館大ホール  6時30分

 東京二期会は、つい先頃━━といってももう8年も前になるのだが━━ペーター・コンヴィチュニーの、かなり素っ頓狂(?)な演出により、この「サロメ」を上演したことがある。
 今度は一転して、ハンブルク州立劇場のウィリー・デッカ―演出のプロダクションを持って来た。大きな階段上の舞台装置(ヴォルフガング・グスマン)もハンブルクのものだが、これは借りたのではなく、日本の劇場に合わせて改造する際のあれこれのややこしい問題を避けるため、まるまる買い取ってしまったものだそうだ。

 配役は、ダブルキャストによる4回公演の、今日は初日で、森谷真理(サロメ)、大沼徹(預言者ヨカナーン)、今尾滋(ヘロデ王)、池田香織(王妃ヘロディアス)、大槻孝志(衛兵隊長ナラボート)、杉山由紀(小姓)、そのほかの出演。

 今回の上演では、セバスティアン・ヴァイグレが読売日本交響楽団を指揮するのが呼び物の一つだったが、これは素晴らしい出来だった。
 ヴァイグレについては━━実は私は、これまで彼のウィーンやバイロイトでの彼のオペラの指揮をいくつか聴いた結果として、あまり良い印象を持っていなかったのだが、しかし今日のように、オーケストラを過剰に鳴らさずに歌手の声を巧く聴かせ、しかもR・シュトラウスの多彩な官能性に満ちた音楽を美しく雄弁に響かせることができるのなら、これはもう彼の成長を認めるに吝かではない。

 また、読響も流石の演奏であった。今の日本で、オペラのピットに入ってたっぷりした音を響かせることのできるオーケストラの第一は読響ではないかと私は思っているのだが、今日も実にいい音を出してくれたのである。

 いま、「過剰に鳴らさずに歌手の声を聴かせ」と書いた。実は今日、1階席12列で聴いていたのだが、どうしてしまったのかと思うくらい、歌手たちの声が前に出て来なかったのである。特に前半がそうだった。歌い方の所為だったのか、それとも、天井が抜けている舞台装置の所為だったのか? 
 だが、舞台前面で歌った時にさえも、声がまっすぐに客席へ響かず、何か散り気味になってしまっていたのだ。聴き慣れている優秀な歌手たちであり、いつもはこんな程度の声量ではないはずなのに━━。
 池田香織などは持ち前のパワーのある声で君臨していたが、それでもやはり、いつもの彼女とはちょっと違う印象になってしまっていたのだ。

 そうした条件付きではあるものの、しかしやはり、題名役の森谷真理の声は美しく伸びがあった。サロメを怪物的な女として表現するのではなく、清純さの裡に魔性を漂わせた女として描き出すことにも成功していたのではないかと思う。この人には、一種の「華」が感じられるし、歌唱の面でも聴くたびに進歩が感じられ、新しい役柄表現の開拓に成功を収めているようである。
 それにしても、あの大きな階段を走って上がったり下りたりしながら歌い続けるのは、大変だろう。よく息が上がらないものだと、私はハラハラしながら感心して眺めていた。「オペラ歌手はアスリートですよ」と岩田達宗さんが言っていたのを思い出す。

 デッカ―の演出については、演技が実に精緻で、それらが音楽の動きとぴったり合っているのに感心した。音楽の高まりと、ドラマの緊張の高まりとが、見事に合致しているのである。再演とはいえ、演出家ご当人が現場に来ていると、舞台も引き締まるものだ(ご本人もカーテンコールに出ていた)。

 「7つのヴェールの踊り」は、この演出では、サロメとヘロデ王との愛の駆け引きのような設定に変えられていた。
 またラストシーンでは、兵士たちに殺される前にサロメが自刃する、という設定になっていた。サロメの最期の場面については、これまでにもト書きとは異なるさまざまな手法が採られているから、自殺という形ももちろんあり得るだろう。
 ただ、デッカ―が述べている「ヨカナーンに拒否された時点でサロメは人生の目標を失い、底なしの穴に転落する・・・・ヘロデが『あの女を殺せ!』と命じようが命じまいが、彼女は終りなのだ」(プログラム冊子から自由に引用)という演出コンセプトは、この舞台からだけでは、必ずしも読み取れないのではないか。

 というわけで、歌手陣の声の聞こえ方の問題(実に惜しい)を除けば、極めて良い「サロメ」だった。字幕(岩下久美子)も明解。8時15分頃終演。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

























Since
September 13, 2007

これまでの来訪者数

ブログ内検索

お知らせ

●2007年8月以前のArchivesを順次、アップロード中です。併せてご覧下さい。
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2006年8月
2006年7月
2006年4月
2006年3月
2005年12月
2005年8月
2005年4月
2005年3月
2004年4月

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

雑誌 モーストリー・クラシック に連載中
「東条碩夫の音楽巡礼記」