2021-06

2019・5・10(金)ロイヤル・オペラ シネマ「運命の力」試写会

      日本シネアーツ社試写室  1時

 「ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)シネマシーズン2018/19」の一つ、今年4月2日上演のヴェルディの「運命の力」。上映時間は休憩2回を含め4時間18分と長いが、素晴らしく見応えがある。

 指揮はアントニオ・パッパーノ、演出はクリストフ・ロイ。
 歌手陣はヨナス・カウフマン(ドン・アルヴァーロ)、アンナ・ネトレプコ(レオノーラ)、ルドヴィク・テジエ(ドン・カルロ)、フェルッチョ・フルラネット(グアルディーノ神父)、アレッサンドロ・コルベッリ(メリトーネ修道士)、ヴェロニカ・シミオーニ(プレツィオジッラ)他。

 改めて言うまでもないが、この配役はすこぶる豪華である。
 カウフマンは、ソット・ヴォーチェの個所での不安定さなど、必ずしも本調子で無かったかもしれないが、いざとなると舞台と音楽を自己に惹きつけてしまうのは流石だ。悲劇的な宿命を満身に負った感のあるこのドン・アルヴァーロ役を、知性的なニュアンスを失わずに表現できるという点でも、やはり彼は卓越した存在であろうと思う。

 そして、狂的なほど異常な執念深さを持ったドン・カルロを、ルドヴィク・テジエが見事に歌い演じる。彼はもともと少し愛嬌のある顔立ちだから、それが怨念に燃えた表情をすると、余計に凄味が出る。
 このオペラでは愛の二重唱がひとつもない代わりに、アルヴァーロとカルロのテノールとバリトンの対決が多く、これらはいずれも圧巻のシーンである。

 ネトレプコはいつもに変わらぬ素晴らしさで、ドラマの最初から最後まで切羽詰まった状態に追い込まれている悲劇的なレオノーラを見事に歌い演じていた。彼女の人気は圧倒的だが、ただ、観客の中には彼女に対してだけ異常な熱狂を示すシンパ(女?)がいるようで、この雰囲気は少々恐ろしい。
 その他、フルラネットの滋味にあふれた神父ぶりが、ドラマをうまく支えている。また、プレツィオジッラ役のシミオーニというメゾ・ソプラノは、華やかに歌って踊れるミュージカル的な器用さがあるようで━━。

 なお、最初にピストルの暴発により命を落としてしまうカストラーヴァ侯爵を演じていたのが懐かしの名バス、ロバート・ロイドだったことを、あとからサイトの配役表を見て知って、もっとよく観ておけばよかったと後悔した。確か今79歳のはずである。まだ元気で歌っていたのか、と嬉しくなった。
 「ラタプラン」の場などで、表情豊かな演技や長いダンスをこなすロイヤル・オペラ合唱団の上手さも圧巻だ。

 そうしたものすべてを統率制御する指揮者パッパーノの手腕には舌を巻いた。ヴェルディの音楽のニュアンスの細かさ、ドラマ全体を貫く「運命」の恐るべき力や、登場人物の性格などの描写における巧みさ、旋律と和声の美しさなどを、これほど鮮やかに表出できる指揮者は、古今決して多くはないだろう。このオペラがこれほど精緻微細に演奏されたのを聴いたのは初めてと言っていい。
 一方、クリストフ・ロイの原演出は、ところどころ腑に落ちぬ手法も見られるけれども、教会の腐敗ぶりを浮き彫りにしたりするなどかなりニュアンスの細かい解釈に富んでいる。例えば修道院にやって来た時のレオノーラの身に起こる出来事などのような、過激な手法も僅かながら観られる。

 使用された版はもちろん改訂現行版で、最後はアルヴァーロが、既に白髪を頂いたレオノーラの遺体を抱いて慟哭する場面で終る。ちなみに、アルヴァーロも投身自殺してしまう超悲劇的な「原典版」は、それが初演されたマリインスキー劇場で以前ゲルギエフが指揮したのを観たことがあるが(日本公演でもやったような記憶がある)、あれは現行版以上に気が滅入るオペラだ。

 かようにロイヤル・オペラの本領をたっぷりと堪能させてもらい、満足したので、PR記事みたいになるけれども━━これは5月24日~30日に東宝東和系TOHOシネマズ(日比谷、日本橋、横浜、流山、名古屋、大阪、西宮)で上映される。
※━━と、チラシに載っている通りに引用したのですが、東宝東和のサイトをあとから確認したら、どうもかなり変更になっているらしく、しかも1週間前になってもほとんどが詳細未発表。ごめんなさい。あそこはさっぱりわからない。

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