2019-12

2019・4・10(水)「フィレンツェの悲劇」「ジャンニ・スキッキ」

     新国立劇場オペラパレス  7時

 ツェムリンスキーの「フィレンツェの悲劇」と、プッチーニの「ジャンニ・スキッキ」のダブルビル。
 珍しい組み合わせだが、新国立劇場の舞台ではこの2作のダブルビルが14年前(2005年)に上演されたことがある。東京二期会の新プロダクション(カロリーネ・グルーバー演出、クリスティアン・アルミンク指揮新日本フィル)である。あれは図抜けて面白かった。   

 今回の演出は粟國淳だったが、しかし彼はグル―バー演出のような、2つの作品を連続したストーリーに仕立てるといったような解釈は採らない━━そういえば彼は、昨年のカレッジオペラハウスでのメノッティの「電話」と「泥棒とオールドミス」のダブルビルでも、特に両作品を関連づけるという手法は採っていなかった。
 それはそれでいいのだが、しかし今回は、極めてトラッドな演出で、━━それは「解り易い」という利点はあるだろうが、大野芸術監督時代に入った今の新国立劇場が新演出を手掛けるのであれば、たとえ写実的な舞台を設定した場合でも、もう少し何か演劇的な新機軸を打ち出した舞台にできなかったものかと思う。

 「フィレンツェの悲劇」の舞台には動きも凄味もなく、3人の登場人物が見せる表情も腑に落ちず、複雑な心理葛藤の描写が全く感じられない。また「ジャンニ・スキッキ」では、舞台は賑やかでコミカルではあるものの、概して常套的で、カルロス・アルバレスの存在感と最後の大見得とが辛うじて舞台にアクセントを与えていた、という印象であった。
 ただ、横田あつみによる舞台美術は、前者では頽廃的な雰囲気を出し、後者では「財産と調度品」をコミカルな形で誇張して、センスに富んだものだったと思う。

 歌手陣は、「フィレンツェの悲劇」ではシモーネをセルゲイ・レイフェルクス、その妻ビアンカを斉藤純子、彼女の不倫相手グイードをヴゼヴォロド・グリヴノフ。
 いっぽう「ジャンニ・スキッキ」では、題名役をカルロス・アルバレス、その娘ラウレッタを砂川涼子、その恋人リヌッチョを村上敏明、そのほか寺谷千枝子、針生美智子、吉原圭子、志村文彦、大塚博章、鹿野由之ら、良い顔ぶれも並んでいた。
 だがこの中で目だったのは、前述のとおり存在感抜群のカルロス・アルバレスと、例の有名なアリア「わたしのお父さん」で澄んだ声を聴かせた砂川涼子であろう。名歌手レイフェルクスも、さすがに年齢を感じさせるようになったのは寂しい。

 音楽上で特筆すべきは、沼尻竜典の指揮と、東京フィルの演奏であった。
 沼尻は「フィレンツェの悲劇」冒頭から緊迫感に富んだ音楽を響かせ、全曲にわたり緊張感を持続させ、特に最後の「殺し場」への盛り上がりでは見事なサスペンス感を音楽にあふれさせた。コルンゴルトやR・シュトラウスの音楽とも共通する濃厚な官能的、劇的なツェムリンスキーの音楽の良さを、はっきりと味わわせてくれたのである。「ジャンニ・スキッキ」でも、オーケストラを雄弁に語らせた。びわ湖ホールのシェフとして実績を挙げている沼尻のオペラ分野での充実は、ますます目覚ましいものがあろう。

 一方、東京フィルも、惜しかったのは「フィレンツェの悲劇」での最初のトランペットがふらついたことだけで、以降は久しぶりに密度の濃い演奏を披露してくれたのが有難かった。25分間の休憩を含め、終演は9時半頃。

 余談だが、新国立劇場の客席の椅子にクッションが用意されるようになっていた。事務局の某氏に訊いたら、「椅子が経年変化で劣化したため、尻が痛くなった、妻も同じことを言っている」と、客からクレームが来たので、止むを得ず(一部を除き)ほぼ全席に用意したのである、と。クッションには、新国立劇場のタグが付いている。製作するのも大変だったろうと思う。盗まれることもあるのではないか、とつまらぬ心配をしたりする。
 私が座ったあたりは、そんなに椅子は傷んでないと思うが、席にもよりけりだろう。椅子でなく、自分の尻の方が経年変化で劣化することだってあり得るだろう。それに、自分と椅子の相性というものも、必ずある。いずれにせよ、こんなことまで実現させるとは、当節のクレーマーは、良かれ悪しかれ、強力なものだ。

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