2019-08

2019・3・27(水)メルカダンテ:「フランチェスカ・ダ・リミニ」

     昭和音楽大学 テアトロ・ジーリオ・ショウワ  2時

 「フランチェスカ・ダ・リミニ」といっても、作曲者はチャイコフスキーでも、ザンドナーイでも、ラフマニノフでもない。サヴェーリオ・メルカダンテ(1795~1870)のオペラだ。実に珍しい作品を取り上げたものである。
 これは1831年に書き上げられながら結局上演されずオクラとなり、やっと2016年になってマルティーナ・フランカで初演され日の目を見たという曰く付きの作品だそうな。
 文化庁と日本オペラ振興会主催、昭和音楽大学協力による「第1回ベルカントオペラ・フェスティバル、イン・ジャパン」と題された催事で、シンポジウムやコンサートの他に、この作品が「オペラ」としてレパートリーに加えられた。藤原歌劇団とヴァッレ・ディトリア(マルティーナ・フランカ)音楽祭の提携公演で、これが日本初演とのことである。

 音楽は、作曲された時代からして、ドニゼッティ、ベルリーニ、ロッシーニのスタイルに近い。美しい歌やオーケストラの旋律が随所に散りばめられる。またストーリーは、ダンテの「神曲」の中でフランチェスカとパオロとによって語られる哀しい物語と同一だが、不気味さは全くなく、イタリア・オペラによくあるタイプの「悲恋のオペラ」として仕立てられたものだ。
 上演時間は休憩1回を含め3時間半と、結構長い。演奏時間が長いだけでなく、「歌」が優先された構成のためにドラマとしての進行が極端に遅いので、それがいっそう曲を長く感じさせる。

 今回は、ファビオ・チェレーザによる「セミ・ステージ上演」と銘打たれていたが、たしかに舞台装置こそないものの、衣装も演技も舞台空間も本格的なものだったため、これで充分とさえ感じられたほどである。
 特に舞台の背景にギュスターヴ・ドレの絵が入れ替わり立ち代わり大きく投映されていたのは効果的で、ダンテの「神曲」に挿絵された「パオロとフランチェスカ」だけでなく、ポーの「大鴉」まで出て来たのには驚かされたし、また「神曲」の「天国のダンテとベアトリーチェ」では、光の天使たちの環が緩やかに回転する動画になっているという芸の細かさも見られた。これらドレの絵画は、今回の舞台上の演技とはイメージ的にあまりマッチしてはいなかったものの、視覚的には愉しめるものであった。

 歌手陣。フランチェスカを歌ったレオノール・ボニッジャ(Bonilla、スペイン生れ)は、2016年にこのオペラが世界初演された際、ファビオ・ルイージの指揮の下で歌った人だとのこと。歌にも舞台姿にも輝かしい華を感じさせ、プリマの素質充分の人のようだ。
 これに対し、パオロ青年を歌った(アンナ・ペンニージ、Ms)は、歌唱は極めて良いが、舞台上の雰囲気では、・・・・少々分が悪い。

 ランチョット(史実及びダンテの「神曲」では「ジェンチョット」)役のアレッサンドロ・ルチアーノは、悪役然とした風格は出しているものの、声量が乏しく、声質もリリカル系であるため、本来の仇役としての凄みのあるイメージにならず、むしろ妻に裏切られた善良で真面目で気の毒な領主のように見えてしまったのが今回の上演における唯一の難点であった━━もっとも、それが演出の狙いだったとすれば、話は別だが。

 一方、フランチェスカの父親グイード役の小野寺光は、声は重量感たっぷりながら、演出の所為で何ともだらしのない父親に見えたのは気の毒。他にイザウラを楠野麻衣、グエルフィオを有本康人。藤原歌劇団合唱部と東京フィルハーモニー交響楽団、ダンサーは五十嵐耕司ほか5人。指揮のセスト・クワトリーニが柔らかいカンタービレを効かせて、好い雰囲気を出していた。

 馴染みの全くないオペラなのに、会場は満席に近い。藤原オペラのパワーか。

コメント

 舞台装置が少ない中で、舞踊を入れたり、また、舞踊も含む複数の人物の動きや隊形で船に乗っているかのような状況を作ってみたり、演出にもいろいろ工夫があって、面白く思いました。指揮のセスト・クワトリーニは30代の若い指揮者でしたが、バトンテクニックもあり、様々なな表現を試みていて、できればまた、聴いてみたいと思いました。
 歌手の方はソプラノもメゾも少々入りは難しかったのですが、しり上がりに良くなったように思います。一方、テノールはこの日は、不調だったようで(春の変わりやすい天候、気温がこの週前後は多目)、高音が多かったり、テンポの速い所では、苦戦を強いられていましたが、最後まで演技、ゼスチャーを多用しながら、よく歌いきったように思いました。初めて聴く作曲家、オペラでしたし、全体としてなかなか個人的に満足でした。
 ただ、この日も、明らかにこうした事情を察していないブラボーがちらほらあったのと、上演中に袋からガサゴソと飴、菓子を口に入れ、私語もしてしまうオバちゃんが周囲に多く、困りました。本人たちの問題なのでしょうが、基本的なマナーの呼びかけは主催者にもお願いしたいところです。
 

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