2019-10

2019・2・5(火)橋爪功主演「父」

     東京芸術劇場 シアターイースト  7時

 フロリアン・ゼレール作、ラディスラス・ショラー演出による「父」という演劇。出演は橋爪功、若村麻由美、壮一帆、大田緑ロランス、吉見一豊、今井朋彦。

 認知症は、今や洋の東西を問わぬ大問題だろう。観るのは耐えられないほどだが、避けては通れないこと━━それがこのドラマの描く内容である。

 認知症が進行しているにもかかわらず、自らはそれを認めようとしない父アンドレ。
 それに心を痛めながら、さまざまな方法を講じようとする娘アンヌ。親切に介護しようと懸命に試みる女性たち。アンドレの行動に苛立ち、面と向かって暴言を吐き、果ては彼に暴力まで振るう男たち。どれも現実にあり得る━━いや、人によっては現実にどれかは体験しているであろう行動だけに、たとえ舞台上の出来事であるにせよ、その光景は痛々しさの極みである。

 更に恐ろしいのは、認知症に罹りはじめた主人公を周囲から客観的に見るだけでなく、その当人の側から周囲を見た様子が描かれていることだ。
 自分は正常だと思い込んでいる当人からすれば、周囲の光景や、周囲の人々の態度は、全く理解の行かぬものであり、怪奇なことが次から次への身の周りで起こっていると思えるのではないか? それゆえ当人は、何が真実か、誰が誰かも判らぬことになる。
 そして観客は、それぞれの年代あるいは体験から、当人か周辺かのどちらの側に立って芝居を観るか、選択せざるを得なくなるのだ。

 「自分は正常」なのにもかかわらず、娘の言うことが屡々変わる(ように思える)ため理解できなくなり、誰が娘の夫かも判らなくなり、その夫(かどうか判らぬ男)に暴言を浴びせられ殴られて泣き、━━それらの状況と闘うことに疲れ果て力尽き、ついには自信を失い絶望し、優しく差し延べられる看護師の女性の手に縋る主人公アンドレを、橋爪功が凄まじい迫真力を以って演じている。あまりに巧すぎて、観ていて怖くなる。気の滅入るドラマだ。

 これは2012年にパリで初演され、2014年以降毎年各国で上演されて来たドラマで、日本では今回が初演の由。シアターイーストでは24日まで上演され、3月には西宮、上田、高知市、名古屋、松本でも上演される。

 そういえば、50年以上昔のことだが、たしか「カリガリ博士」とかいう映画があったことを思い出した。
 主人公の女性が突然拉致されて監獄のような場所に押し込められ、周囲は得体の知れぬ怪奇な人間ばかり、恐ろしいことがたびたび起こり、脱走を図っても成らず━━という状況が続くが、ある猛烈な衝撃を受けた時点で気がつくと、そこは穏やかな雰囲気の療養所、周囲は優しい人たちばかり。主人公の女性は、ある「精神的な無防備」を体験することによって、己が心の城壁を取り払うことが出来、正常な心理の人間に戻ったのであった・・・・というストーリーだったと記憶する。

コメント

私も観てきました。息もつかせぬ休憩なしの110分。橋爪氏の演技力に圧倒されました。
太田緑ロランスさんだけがミスキャスト。マネジメントの力とか、この世界もいろいろあるのでしょうね。

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