2019-01

2018・12・27(木)ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン
キース・ウォーナー演出 ワーグナー「ヴァルキューレ」

       東宝東和試写室  1時

 これは10月28日、ロイヤル・オペラ・ハウスでのライヴ上演映像。キース・ウォーナーの演出、アントニオ・パッパーノ指揮ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団。
 主な配役と演奏は、スチュアート・スケルトン(ジークムント)、エミリー・マギー(ジークリンデ)、アイン・アンガー(フンディング)、ジョン・ランドグレン(ヴォータン)、サラ・コノリー(フリッカ)、ニーナ・ステンメ(ブリュンヒルデ)。

 キース・ウォーナー演出によるワーグナーの「指環」は、かつて新国立劇場で上演されたことがあり、日本のワグネリアンの間では今なお語り草になっている舞台だったが、現在ロイヤル・オペラで上演されている「指環」は、それと全く異なった演出によるものである。私はこのロンドンの舞台をナマで観ていないのだが、少なくともこの「ヴァルキューレ」を映像で観る限り、新国版よりもストレートな解釈に依っているような印象を受ける。

 もちろん、細かい点では通常の演出とはいささか異なった光景が見られる。
 たとえば第1幕では、意外やフンディングの方が客人に友好的な雰囲気で、握手を求めたりするのに対し、むしろジークムントの方が非友好的で、フンディングが気分を害してしまう、という演出が気に入った。アイン・アンガーが阿部寛ばりの風貌なので、あまり悪役に見えないから猶更である。
 そのあと、「剣の動機」が反復されるうちにジークリンデがジークムントにノートゥングが刺さっているトネリコの樹を目で示すという場面では、通常の演出と異なり、眠り薬のため意識朦朧とし始めたフンディングが蝋燭を灯して一種の儀式めいた仕草を行なうという光景に変えられていた。

 また第2幕最後では、ヴォータンみずから槍でジークムントを背後から突いてとどめを刺し、そのあとフンディングをも自ら槍で刺し殺し、最後には(ブリュンヒルデの後をすぐ追わずに)絶望してくずおれるという演技などが見られる。
 しかしまあ、これらの程度のものは、特に新機軸というほどでもあるまい。
 一方、第3幕のヴァルキューレたちは武装していない姿で、馬のしゃれこうべのようなものを掲げて暴れ回る。またこの幕では、ヴォータンの苦悩と「弱さ」が詳細に描かれていた。

 総じて演技は、カメラでアップされるに相応しい非常に微細なつくりで、演劇的な表情が楽しめる舞台である。
 「魔の炎の場面」では、ヴォータンが炎の玉を掌に載せて手品のようなことをやっているわりには炎がなかなか拡がらないという進行で、逆にやきもきさせられる状態だったが、オーケストラが「ジークフリートの動機」を壮大に奏し始めるくだりになって、突然舞台上手や上方に炎の線が炸裂するという演出になっていた。

 なお舞台美術は、ステファノス・ラザリディス。「新国リング」のデヴィッド・フィールディングのものに比べ、もう少しリアルながら、最初の2つの幕では何だか判らないものが舞台中にごたごた転がっているという造りである。

 パッパーノとオーケストラの演奏は、録音が少しドライながら、特に第3幕の演奏が驚異的に素晴らしく、前半の緊迫した激烈な劇的迫力、後半の、特に「ヴォータンの告別」のくだりでのカンタービレの見事さはさすがパッパーノというべきだろう。この幕では、音楽の美しさが余すところなく再現されていて、「ヴァルキューレ」の尽きせぬ魅力を改めて認識させてくれたのだった。

 上映時間は約5時間(生中継の際はもっと長かったのではないかと思われる)。休憩は2回だが、解説やゲストとの対談など、いろいろな趣向が入るので、それぞれ19分と10分になっている。この休憩時間の短さに加え、試写室は映画館と違って「飲食禁止」だからヘビーだ。が、第3幕の演奏の良さがワーグナーの音楽の圧倒的な量感を堪能させてくれたおかげで、それまでの疲れもすっかり吹き飛んでしまった次第である。いや、これは第2幕までの演奏がつまらなかったなどという意味ではない。
 字幕は率直な文章なので、要を得て解り易い。

 この「ヴァルキューレ」は、1月11日から17日まで日比谷、日本橋、横浜、流山、名古屋、大阪、西宮などのTOHOシネマズで上演される由。宣伝を頼まれたわけではないが、一聴一見の価値がある。
 中継案内役の女性が毎回ハイ・テンションで、しかもビンビン響く声で喋るのだけは、ちょっと好みが分かれるかもしれぬ(私はこれが毎回辟易気味なのである)。

コメント

ロイヤル・オペラ・ハウスのシネマというと、以前は宣伝力の弱さ(PRが弱い、上映時間もわかりにくい等)を先生が書かれており、私は2年ほど前、先生のブログでその存在を知りました。
それがいつの間にか、WEBぶらあぼにバナーが置かれ、Webデザインも刷新(スマホでも見やすくなりました)、演目解説やタイムテーブルなどコンテンツも充実したように思います。

フンディング、名の示す通り犬のような存在ではあるけれど、ある意味一貫した人物ですよね。なるほど、あまり冷徹乱暴に描くより、第一幕全体のバランスとしても良さそうです。

シネマオペラ、METのものを何度か観て、なかなかタイヘンというイメージなのですが(試写室でなくても飲食をする雰囲気はほぼなく、書かれている通り休憩も短く、"開演"時間も微妙)、この後のラインナップでは、ファウストに興味があります。秋には来日しますが、シネマのほうで観てみようかな、と思ったりしています。

さて、今年も多数のブログ記事更新をありがとうございました。年が明けるとオペラ講座が続き、ご準備にも忙しいことと思います。どうぞよいお年をお迎えください。

「トーキョウ・リング」のウォーナーとNHK・FMで放送された’05年プロムスの「ワルキューレ」のパッパーノ・ロイヤルオペラ(ドミンゴ、ターフェル出演)のコンビの上演。
「トーキョウ・リング」は、ヴォータンが映画監督で、ワルキューレ第二幕ではフィルム編集中にフリッカに小言を言われる、という演出でした。また、第一幕には、巨大な机と椅子が、「ワルキューレの騎行」では看護婦のワルキューレたちが救急のため英雄たちを乗せたベットと走り回る(よくアンサンブル乱れず歌えると感心)。読み替えが多い演出でした。
今回のものは、すぐ新演出したのに、セットの予算のせいか、オーソドックスになっていると思いました。
パッパーノの演奏は、’05年と比べると、熱量は減りましたが円熟は感じました。

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