2021-06

2018・12・2(日)ワレリー・ゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィル

      サントリーホール  2時

 2日目の今日は、前半にユジャ・ワンとのプロコフィエフの「ピアノ協奏曲第3番」、後半にブルックナーの「交響曲第9番」。

 プロコフィエフは、今回のツアーのプログラムの中では唯一のロシアもの。ゲルギエフにとっても自家薬籠中のレパートリーだ。弦16型編成でコンチェルトを演奏するのだから音量は凄まじい。野性的な曲想に対するには、ドイツのオーケストラの表情が何とも生真面目すぎて、と微苦笑していた人がいたが、まあそれは当たっているかもしれない。
 だが、そのオケからゲルギエフが引き出す音色の多彩さはさすがに見事だ。第1楽章がアレグロに入った直後、弦楽器群が突風のように閃かせた音型がこれほど表情豊かに、しかも不思議な色気を以って響かせられた例は滅多にないだろう。

 この名技主義性豊かな協奏曲は、ユジャ・ワンにとっても聴かせどころの一つ。若々しい気魄を存分に発揮させていた。
 ソロ・アンコール曲は、今日も2曲。プロコフィエフの「トッカータ作品11」と、モーツァルトの「トルコ行進曲」(ヴォロドス、ファジル・サイ、ユジャ・ワン編曲)とを、これ以上はないほど鮮やかに弾きまくって行く。ゲルギエフは、今日も下手側に立ったまま、じっとその様子を見守っていた。

 後半はブルックナーの「第9交響曲」。ゲルギエフの指揮するこの曲を聴いたのは今回が初めてだ。これほどいろいろな意味で「濃い」ブルックナーは、聴いたことがない。ミュンヘン・フィルの重厚なパワーがものを言っていたのは事実だが、音響的にも並外れて強大である。
 頂点の築き上げには巧みに設計されたクレッシェンドが力を発揮し、その行き着くところでは、間違いなく更に巨大な音響がだめ押しの如く出現するのだ。第1楽章の展開部や終結部、第3楽章で何度も繰り返される起伏の頂点などでは、それらが凄まじい迫力を生み出している。

 といって、ただ大きな音で威嚇するのではない。第3楽章の【A】の前など、普通なら弦を際立たせたままクレッシェンドさせる個所で、部分的に金管を強調して音色に変化を持たせるといったこまやかな手法を用いている。また、【B】からの有名なコラールの中で、ヴィオラの小さなモティーフを明確に浮き上がらせてアクセントをつけていたのも印象的だ━━なるほどこの個所では、ヴィオラのみは他の弦楽器群よりも一段階強い音を指定されているのである。

 その他、第2楽章のスケルツォ部分などでは、重戦車が突進するような趣もあり、まるで悪魔が髪振り乱して狂乱するような趣もあった。ブルックナー特有の清澄な偉大さよりも、荒々しい激情を優先した演奏だったと言ってもいいだろう。
 楽屋を訪れての、超多忙なゲルギエフとのほんの十数秒の立ち話の中で、「実にデモーニッシュだった」と誉めたら、彼の方はそう言われたことにはちょっと驚いたらしく「ワオ」と言ったまま1,2秒間考え、頷いて「確かにブルックナーの交響曲の中でこの曲だけは異質だからね」と答えた。

 この2回の演奏会に先立ち、11月30日にPMFの主催でゲルギエフとのプレス懇談会が開かれ、そこで彼は、若いアーティストへの支援の意義について語ったが、その中で━━昔、駆け出しの自分は、カラヤンや多くの大先輩によって引き立てられ、世に出ることが出来た、その恩返しをするべきだと思っている、先輩たちの多くはもういないので、今の若い演奏家たちを全力で応援したい、それが先輩たちへの間接的な恩返しだと思っている、とも語っていた。
 なおPMFでは、2020年に札幌の新しい劇場でモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」を舞台上演、自ら指揮する予定だ、とも予告している。
     →(別稿)モーストリー・クラシック3月号 公演Reviews

コメント

大阪で拝聴しました

大阪でのプログラムは、ブラームスのピアノ協奏曲第2番とブルックナーの交響曲第9番でした。ユジャ.ワンさんの演奏は、初めて拝聴しました。素晴らしい演奏ですね。内に秘めた情熱の解放、と私は表現したいです。ブルックナーの交響曲第9番も素晴らしかったです。ゲルギエフさんのタクトのない手先を拝見していますと、それだけで芸術品だと感じました。オケの方々も呼応していたと思います。今の若い演奏家たちを全力で応援することが、先輩達への間接的な恩返し。プレス懇談会でのこのコメント、感動しました。

こんにちは。福岡で聴きました。私としてはブルックナーがメインでした。「デモーニッシユ」分かる気がします。「ブルックナーの交響曲で異質」も。「大宇宙の鳴動」というような言い方がよくされますが、ブルックナー歴2年強の私はこの曲にそれを一番感じます。「デモニッシュ」もその辺りとも関係ありますかね。 
 初の9番は最高の音体験の一つでした。フライング拍手だけが残念でした。

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