2021-06

2018・11・2(金)ギルバート指揮NDRエルブ・フィル

     サントリーホール  7時

 旧称ハンブルク北ドイツ放送交響楽団、変じてNDRエルブ・フィルハーモニー管弦楽団。トーマス・ヘンゲルブロックの後任として来年秋から首席指揮者になるのがアラン・ギルバート。彼はすでに2004年から15年まで首席客演指揮者を務めていたことがある。

 以前(2009年11月16日)にハンブルクでこのコンビの演奏を聴いた時には、プログラムが極端に渋く硬派なものばかりだったこともあって、ステージも客席も寒々とした雰囲気だったし、この指揮者とオーケストラは果たして良き相性なるや否やとさえ疑ったほどだった。
 が、今日演奏されたベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第4番」(ソリストはルドルフ・ブッフビンダー)とブルックナーの「交響曲第7番」を聴いてみると、彼がオーケストラとともに創り上げる音楽はすこぶる立派なものになっており、以前とは別人の如き風格を備えるに至っている。彼の成長を物語るものだろう。

 そしてまた彼は、この独墺の作曲家の名曲を、この楽団の伝統的な、重厚で強靭な意志に富んだ個性の中に、自らの瑞々しい感性を加えて生かそうとしている━━そんな意欲が感じられる演奏だったように思う。
 プログラム冊子掲載のインタビューによれば、今回のプログラムはヘンゲルブロックが考えたものとのこと、それを変更せずに持って来たところに、ギルバートの自信が窺える。

 ブルックナーの「7番」は、何の衒いもない自然体の構築による演奏だ。伸びやかさにあふれ、しかも落ち着きが感じられ、音色も美しい。ハーモニーも澄んでいて、ブルックナー特有の気品に相応しいところがある。最強奏の頂点に向けて進むクレッシェンドでの力感もなかなかのものであった。
 ただそれが、未だ楽譜上の正確さとか几帳面さとかいった演奏にとどまり、心に沁み込んで来る深み━━これは曖昧な表現で、結局は聴き手個人の受容の問題でしかないが━━のようなものには不足しているだろう。これは、両者の関係におけるキャリアからいって仕方のないところかもしれない。

 ベートーヴェンの協奏曲の方は、当初の予定ではエレーヌ・グリモーが来て演奏するはずだった。彼女の来日中止は全く痛恨の極みである。代役として駆けつけてくれたのはウィーンの大ベテラン、ルドル・ブッフビンダーだった。
 グリモーに比べれば、ある意味で常識的な、オーソドックスな路線にとどまってしまったわけだが、しかし彼にも独墺系ピアニストならではの味があり、地元産のベートーヴェンともいうべき重厚で真摯な演奏を聴かせてくれたのは確かである。

 またこの曲では、オーケストラも、実に厚みのある「ドイツ魂」のような演奏を打ち出していた。かりにソリストがグリモーだったら、オケはこういう音を響かせただろうか? NDRのオーケストラは、ここではギルバートにではなく、ブッフビンダーに合わせた演奏を行なったのではないかという気がしてならない。もちろん、ギルバートもそれを納得していたのだろうが。

 しかし、何となく久しぶり━━のような気がする━━に聴くこのドイツ魂の風格にあふれたベートーヴェンには、心の温まるような思いにさせられる。ブッフビンダーがアンコールで弾いたベートーヴェンの「テンペスト・ソナタ」のフィナーレと、バッハの「パルティータ第1番」の「ジーグ」も同様である。不思議に安堵させられる(?)演奏だった。

コメント

ハンブルク北ドイツ放送響

お疲れ様です。
久しぶりに、このオケ本来の音を聴いた。暖かみのあるどこか懐かしい音。これが、彼らのパスポート。
ブルックナーも、初めて聴く人には、「いつ終わるか不安になる」ように、聴き込んだ人には、「もう終わってしまうのかと不安になる」ようにやれていた。これが基本。

4日の演奏会もよかったです。曲目はローエングリン第1幕への前奏曲、マーラーの10番アダージョ、ブラームスの4番。なかなか凝ったプログラムだったと思います。全体的にスッキリと美しい響きで、両翼配置も効果的に感じました。

 NHKホールの公演を拝聴しました。東条先生の「未だ楽譜上の正確さとか几帳面さとかいった演奏にとどまり、心に沁み込んで来る深み━のようなものには不足しているだろう。」この講評が、こちらでもブラームスなどを中心に当てはまったように思います。また、ラヴェルのコンチェルトはフランスはもちろん、他の国のオケよりも骨太な音になるとは予想していたのですが、ややオケが演奏し遅れているような感じ、また、耳に残るミスもいくつかあったように思いました。こうした中、ピアニストはまずまず健闘していたように思いました。
 近年、やや大振りの指揮者も多い中、この楽団や都響でどのように細密に琴線に触れる音楽づくりをギルバート氏がしてゆくのか、日本のファンとして期待してゆきたいところですが、この所、NHKホールを中心に「心の琴線」という言葉が似つかわしくない怪獣のようなブラボーや鼓膜が破れそうな拍手をする人が増えているのは重ね重ね、閉口するところです。四半世紀前はこんなことはなかったのですが‥。
 

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