2018-12

2018・9・21(金)シルヴァン・カンブルラン指揮読売日本交響楽団

      サントリーホール  7時

 ブルックナー・ファンも忙しいことだ。
 「交響曲第4番《ロマンティック》」に、近年は「コーストヴェット校訂版」なるものが加わって来た。これはベンヤミン・コーストヴェットの手によるもので、既に14年も前、2004年に出版されているスコアなのだが━━。
 「版」といってもこれは、ハース版、ノーヴァク版(2種)に続くブルックナーの原典楽譜に関する第四のアプローチ・・・・というわけではない。それどころか、あの1888年の「悪名高い」シャルク兄弟とレ―ヴェらによる所謂「改訂版」(改竄版)に基づく校訂版なのである。

 ブルックナー本人による改訂でなく、彼のサインも公式コメントもないこの所謂「改訂版」は、当然ながら、ブルックナーだったら到底書きそうもない音の構築になっている。たとえばブルックナーの清澄で高貴な音色が跡形もなく失われ、厚ぼったい濁った鼠色の響きに変わっているのだ。それゆえこれは、ハース版の登場以後、ブルックナー研究者や愛好者の間では異端視される存在になっていた。「第3稿」などと称するのはおこがましい、というわけである。
 そんな楽譜を「校訂」したところで、何ほどの意味があろうかと思われるのだが━━ましてやそれが出版されたがゆえに「その存在意義が高まった」などと言うのは、そもそも思考の順序が逆ではないかという気がするのである。

 ともあれここでは、決定稿の原典版(つまり「ハース校訂版」もしくはノーヴァク校訂の「1878/80年版」のことだが)に比して、全曲いたるところに、唖然とするほどの変更が加えられている。
 ぱっと聞いて目立つところでは、たとえば━━
 第1楽章の最後から2番目の強奏和音が削除され、
 第3楽章ではスケルツォ第1部の最後がディミニュエンドで終り、ダ・カーポしたあとの部分では第1部の後半が大幅に削除され、その第2部の最後が今度はティンパニが大暴れする最強奏に書き換えられ、
 また第4楽章では、随所に大幅なカットが施されている━━といった具合である。

 こういう版をメジャーオーケストラが取り上げるのは比較的珍しいが━━もちろんすでに前例はある━━考えてみると読響は、昨年もロジェストヴェンスキーの客演の際に「改訂版の5番」を取り上げて話題を撒いたばかりだ。あの演奏が、並外れた豪演で、素晴らしかったことは私も認める。従って、それと同様、割り切って聴けば、それはそれで興味深いものであり、演奏が良ければそれなりに堪能出来るのは事実である。
 今回も読響の演奏レベルは極めて高く、弦の厚みも見事で、何より今日はホルン群が見事だった。

 なおプログラムの第1部はモーツァルトで、「後宮よりの逃走」序曲と、ピオトル・アンデルシェフスキをソリストに「ピアノ協奏曲第24番」が演奏された。
 好みにもよるが、このコンチェルトがこの日の白眉であった、ということもできようか。アンデルシェフスキの透徹した美しい叙情と、カンブルラン&読響の重厚壮大で陰影に富んだ風格が、魅惑的な演奏を生み出していたのである。彼のアンコールはベートーヴェンの「バガテル作品126の1」。

 コンサートマスターは小森谷巧。

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