2019-09

2007・5・20(日)コンヴィチュニー演出の「タンホイザー」

   ザクセン・ドレスデン州立歌劇場  6時

 パリからミュンヘンを経て、昼頃ドレスデンに入る。
 貰ったプレス席が1RANG(2階)2列目20という甚だ見易い位置で、しかも後が壁で右側には少し柱が飛び出しており、身動きも自由というありがたい状況だったため、前夜のような疲れは全く感じずに楽しめた。

 指揮はクリストフ・プリックという人、あまり要領の良くない、面白くない指揮者だったが、オーケストラをあれだけバランスよく、しかも豊かな音を保って鳴らしていたのは、やはり力量もある人なのだろう。
 ここのオーケストラは、指揮者がだれだろうと味のある音楽を演奏できるというのは先刻承知だが、しかしシュトラウス・ターゲの時には、結構うるさい音になっていた時もあったのである。それにしても今日は━━なんというオーケストラの美しさ。和音とその響きは、陶酔的な美しさと温かさだ。

 ドレスデン・オペラが、「タンホイザー」を「ドレスデン版」でなく「パリ版」で上演するなどということがあったらお笑いだろうな、と思って観始めたら、何と本当にそのパリ版だった。第2幕、第3幕も同様である。ただし第2幕ではワルターの歌が復活されていた(これはおそらく演出上の要求によるものではないかと思う)。パリ版基本、一部ドレスデン版使用、というところだ。

 演出はペーター・コンヴィチュニーだが、10年前のものなので、比較的音楽を重要視しているタイプのように見える。ガタガタしている部分も少なくないが、本人が現場にいない所為もあるだろう。
 「バッカナール」の部分は「パルジファル」の花園の場の先取りのような形で、従ってタンホイザーはパルジファルに成り損なった男ということになるか。
 第1幕での羊飼いは羽を生やした天使。歌手たちはタンホイザーが帰還したことを実に単純に素直に喜び、踊り出すほどで、このあたり少々コミカルなタッチだ。
 彼らは第2幕でも領主から救済策を告げられるとそれに同調し、むしろタンホイザーを激励するのである。領主自身も、怒りを覚えながらもカタンホイザーに深い友情を示すのを隠さない。めずらしい解釈だろう。

 特筆すべきは、ヴォルフラムが並み外れて重要な存在になっていることだ。これは、ほどんどタンホイザー━━エリーザベト━━ヴォルフラムという、三角関係の人物ドラマといってもいい。
 ヴォルフラムは、第1幕でエリーザベトのことを語る時からすでに内心の感情を外に表してしまう。また第3幕ではエリーザベトを抱きかかえ、その死を看取りながら「夕星の歌」を歌うのである。後者はかなり衝撃的だが、しかし音楽を少しも邪魔していないので感動も一入だ。
 第2幕最初の二重唱の中に「ヴォルフラムの落胆のことば」を復活させているのは、その点でも全く当を得ていることであり、我が意を得たという思いである。
 ただ問題は、ここでのヴォルフラムの演技には高貴さよりも人間的な苦悩が浮き彫りにされており、したがって少々優柔不断な男に見えてしまうことだろう。

 歌合戦はむしろ賑やかなパーティだ。歌手が歌う時、周囲の女性たちが手を彼に向かって高くかざして支持を表明するのが美しい。この辺りはレジー・テアター系演出家と思えぬほどである。群衆の演技は、非常に細かい。
 アンサンブルでは、タンホイザーのパートはほぼノーカットで歌われるが、合唱の一部は省略されて、彼のパートを浮き出させるようにしてある。しかし題名役のジョン・フレデリック・ウェストの化物のような声量を以てすれば、その必要は全くないように思えた。
 最後のアンサンブルは、珍しくほぼノーカットで演奏されている。

 第3幕では、ヴェーヌスはボトル片手にグデングデンになって出現、最後には彼女がエリーザベトの亡骸を抱き、タンホイザーと3人で舞台中央に動かなくなる。合唱とともに背景の空がブルーに染まるのはいいが、突然下手舞台上方に大きなヒマワリの花が出現するのは何ともいただけなく、観客にも失笑が起こるし、折角の感動的な幕切れで画竜点睛を欠くといったものだ。最後に逃げを打つコンヴィチュニーの悪い癖が、ここでも出てしまっている。

 ヴェーヌスはガブリエーレ・シュナウト、声は勿論充分だがその動きの鈍い体躯はヴェーヌスとは思えぬ。エリーザベトのアンネ・シュヴァンネヴィルムスは清純な雰囲気ではあるものの、性格表現に今一つ。ただし、裏切られて大人になるあたりの変化には見るべきものがあった。ヴォルフラムはマーカス・バッター、領主はラインハルト・ドルン。
 総じて、この作品に新しいものを見出だせるには充分の上演であったといえよう。これで、疲れも見事に吹き飛んだ。

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