2021-06

2018・7・28(土)加藤昌則:オペラ「白虎」再演

    会津風雅堂  2時

 台風の接近で雨が時々激しく降る東京を早朝に離れ、東北新幹線と磐越西線を乗り継いで会津若松に入る。
 会津若松にはこれまでにも何度となく訪れているが、たいていはクルマで往復していたので、列車を利用したのはこれが2度目か。今はこの磐越西線も、郡山から会津若松まで66分ほどで行ける快速が走っていたりして、昔━━というのは実は30年前の話だが━━に比べ、随分早く行けるようになった。現地は、昼頃にはわずかに雨模様だったが、直ちにカンカン照りに替わる。暑い。

 オペラ「白虎」(宮本益光台本、加藤昌則作曲)は、2012年7月にプレミエされたものである。
 その7月27日の公演を観て大いに気に入り、詳しく書いているので、内容の詳細については重複を避ける。今年が戊辰戦争からちょうど150年ということもあって、再演の運びとなったと聞く。
 オペラの中でも盛んに繰り返される例の会津の「什の掟」も━━「虚言を言ふことはなりませぬ。卑怯な振舞をしてはなりませぬ。・・・・ならぬことはならぬものです」という言葉も、プレミエの翌年にあの大河ドラマ「八重の桜」が放映されたこともあって、いっそう広く知られるようになっただろう。もっとも、会津の人たちは、だれでも知っている言葉だろうけれども。

 今回上演された「白虎」は、もちろん前回と同じプロダクションである。
 岩田達宗の演出と、増田寿子の舞台美術、石川紀子の照明、半田悦子の衣装。前回より流れがよくなり、またドラマも明快になっているような印象を得たので、いくらか手直しが行われたのだろうと思う。指揮も同じく佐藤正浩で、プロの奏者を集めた「オペラ白虎特別編成オーケストラ」がピットに入っている。

 主役4人のうち、3人はプレミエ時と同様である。
 西郷頼母を歌い演じる黒田博は前回同様、貫録と風格充分の演技と歌唱で、命を無駄にするなと説得するヒューマンな苦悩の武士を見事に演じている。
 西郷千重子を歌い演じる腰越満美も、武士の妻としての誇りを保ちつつ、心ならずもわが子たちを手にかける悲劇の母を実に素晴らしく歌い演じていた(この場面では、客席ですすり泣いていた観客もいた)。
 高橋啓三の飯沼貞雄(高齢となってからの飯沼貞吉)も、すこぶる味のある老人役の演技と歌である。みんな見事な当たり役だ。泰西のオペラの形式の舞台と雖も、日本人が日本人を演じた時の絶対の強みを、ここでもいっそう強く感じることになる。

 一方、このオペラの中心人物、飯森山で自決した白虎隊士グループのただ一人の生存者、飯沼貞吉を歌い演じたのは━━プレミエ時には経種康彦だったが、彼は先年若くして惜しくも世を去ったので、今回は藤田卓也が受け持ち、体当たり的な歌と演技で、主人公としての責任を果たしていた。
 なお藤田は、こともあろうに「長州出身」だというので、関係者の間では、それがいいネタになっていたという話だ。だがもちろん観客からヤジが飛ぶようなことも、彼への拍手が弱まるということも一切なかった。

 合唱は前回同様、福島の合唱団である。会津若松市立第一中学校、同第四中学校、福島県立葵高等学校、同会津学鳳中学校高等学校、会津若松ザベリオ学園高等学校の各合唱団・合唱部に、多くの一般参加の合唱団員、賛助出演として少人数の国立音大のメンバーが参加している。合唱指揮は辻博之。
 フクシマの合唱と言えば全国に名の轟く存在で、前回の上演の際にもその緻密なバランスの良さに舌を巻いたものだが、今日は初日の所為か、細部のまとまりにおいて些か欠けていたようであった。

 とはいえ、手前の紗幕の陰に位置して西軍の合唱モティーフ(「宮さん宮さん」)を威嚇的に歌う合唱団員の、拳を振り上げ足を踏み鳴らす演技はなかなかの迫力(特に上手側最前列中央寄りに位置した団員の演技には熱が入っていた)であり、舞台奥に位置して「什の掟」を歌っていた白装束の少女団員達も、清らかで美しい。

 こういうオペラを、他所ならぬ会津で観ていると、さまざまなことを考えさせられる。卑怯者と呼ばれることを肯ぜず、誇りを以って戦い、国に殉じようとする人々。あるいは、このような戦争を無意味と考え、生きることの大切さを主張しつつも、やむを得ずその渦の中に呑み込まれて行く人々など。
 ━━当時の会津藩にもさまざまに意見を異にした人たちがいたことは、この物語ならずとも、ほかならぬその戦のさなかに典医として会津城内にいた私の祖父たちが残した記録にも語られている。私の祖父は、どうもその合理主義的な考えを持つグループ━━つまり反戦派に属していたらしいから、その立場は非常に微妙なものがあっただろう。いつの世にも、戦争という状態の中では、このような葛藤が生まれる。太平洋戦争の時も、全く同じだったはずである。

 郡山に戻り、駅前のダイワロイネットホテルに泊。

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