2018-09

2018・7・3(火)藤原歌劇団公演「ドン・ジョヴァンニ」

    日生劇場  2時

 「NISSAY OPERA 2018」、今度は日本オペラ振興会/藤原歌劇団の公演で、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」。

 岩田達宗演出によるニュープロダクションで、ジュゼッペ・サッバティーニの指揮、東京シティ・フィルの演奏。
 歌手陣はダブルキャストで、今日(3日目)はニコラ・ウリヴィエーリ(ドン・ジョヴァンニ)、田中大揮(レポレッロ)、坂口裕子(ドンナ・アンナ)、佐藤康子(ドンナ・エルヴィ―ラ)、中井亮一(ドン・オッターヴィオ)、大塚雄太(マゼット)、梅津貴子(ゼルリーナ)、東原貞彦(騎士長)、藤原歌劇団合唱部。

 売れっ子の岩田達宗の演出は、多くは原作のト書きを基盤として演劇的な読み込みを追求するという路線にあるが、今回もシンプルで冷徹な、限定された空間(装置・増田寿子)の中に、オーソドックスな演技を以ってドラマを展開させるという手法を採った。なお垂れ幕に女性の名前が一面に書いてあって、これが例の「カタログ」を意味するものであることは面白い。

 今回の演出では、ドン・ジョヴァンニは冒頭の騎士長との決闘で腕に傷を負い、この古傷の痛みが、彼の殺人行為へのトラウマとともに最後まで付きまとう。
 この解釈は、クラウス・グートの演出におけるそれと共通するものだが、こちら岩田達宗の演出では、最後にドン・ジョヴァンニが騎士長と対決する際にその包帯を破り捨て、一切のしがらみを断ち切って自由を取り戻し、勝ち目のない倫理の壁に敢然と闘いを挑む━━という流れになっているのが特徴だ。

 その他、ゼルリーナがドン・オッターヴィオに不思議な感情を抱きはじめているらしい、という光景も観られるが、この詳細はあまりよく解らない。
 ただ、岩田氏がプログラム冊子の「演出ノート」に記しているように、ドン・ジョヴァンニの行動のため不幸に陥った者たちがいて━━多分ここでは、彼以外の全員がそうだろう━━それらの存在は確かにはっきりと描かれていたように思う。そしてその中で、ラストシーンで登場人物が散って行ったあとに、レポレッロのみが独り、それでもジョヴァンニを追憶するかのようなそぶりを見せるのが彼にとってのせめての挽歌━━ということになるのだろうか。

 余談だが、こういうまっとうな演出で描かれるドン・オッターヴィオは、まさにどうしようもない能無しの男にしか見えなくて、うんざりする。「奴を告発し、その死を見届けるまでは戻って来ませぬ」と大見得を切っておきながら、そのあとでドンナ・アンナに追いすがったり、ジョヴァンニが地獄に落ちたあとのラストシーンでは「天罰が下ったのでしょう」などと他人事のように言ったりする男なのだから、観ていると苛々して来る。
 こうなると、エクサン・プロヴァンス音楽祭で上演されたディミトリ・チェルニャコフの読み替え演出のような、実直で目立たぬドン・オッターヴィオこそが実はこの一連の出来事の黒幕であり、権謀術数に長けた彼が邪魔者を排除して騎士長の後釜になり権力を握る、という筋書き(2010年7月7日参照)の方が、馬鹿々々しいけれどもスカッとするのだが━━。
 いや、これは岩田さんの演出にケチをつけるつもりで引用したのではない。

 話を戻して、サッバティーニの指揮は、やや重く壮大志向ではあるものの、地獄落ちの場面などは雰囲気があったろう。歌手出身の指揮者のそれらしく、歌唱に重点を置くような指揮であって、あまりドラマトゥルグを配慮した指揮とは感じられない。こういう指揮者と組んだ演出家は、あまり演劇的な緊迫した舞台は創り得ないのではないかという気がするのだが・・・・。
 シティ・フィルも、序曲では何とも音が薄く、これでは緊迫したドラマを描き出すことはとてもできないのではないか、と危惧されたが、幸いに本編の叙情的な個所では、モーツァルト特有の美しい和声を巧く再現していた。

 歌手陣は概ね安定していた。ウリヴィエーリの題名役としての雰囲気の良さは其処此処に出ていたのではないか。彼と表裏一体となる存在として田中大揮(レポレッロ)も好演した。
 4人のバス・バリトンが競うこのオペラの中で、ちょっと疑問があったのは東原貞彦の騎士長だ。歌唱が悪いというのではないが、最後にジョヴァンニを圧する超自然的な存在としては少し声が軽く、ゆえに凄味を欠く、ということである。
 女声陣では、ゼルリーナの梅津貴子が少し粗削りながらも生き生きした女性を歌い演じて注目された。

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