2018-07

2018・5・13(日)宮崎国際音楽祭最終日 プッチーニ:「蝶々夫人」

      宮崎県立芸術劇場アイザックスターンホール  3時

 「第23回宮崎国際音楽祭」のフィナーレを飾る、プッチーニの「蝶々夫人」の演奏会形式上演。
 出演は、中村恵理(蝶々夫人)、福井敬(ピンカートン)、甲斐栄次郎(シャープレス)、山下牧子(スズキ)、竹内直紀(ゴロー)、砂場拓也(ボンゾ)、晴雅彦(ヤマドリ、役人)、中原ちふみ(ケート)、他。
 宮崎国際音楽祭合唱団、宮崎国際音楽祭管弦楽団(コンサートマスター・三浦章宏)、広上淳一(指揮)。

 この上演で最も注目を集めていたのは、初めて題名役を歌う中村恵理である。
 期待に応え、こちらのプリマは絶好調。伸びのある強靭な声でオーケストラを圧し、悲劇のヒロインを見事に歌い上げ、聴衆を沸かせた。
 彼女が歌う蝶々夫人は、単なる「可愛い」蝶々さんでもなく、愛のみに生きるだけの女性でもない。もちろん、絶望と悲しみに打ちひしがれて死ぬような、可哀想な蝶々さんのイメージでもない。むしろ、自己の信ずる道をひたすら強い意志力で突き進み、私の愛は正しかったのだと全ての人に対し最後の瞬間まで主張しつづけた━━そういう日本女性のイメージが、彼女の芯の強い声と激しい感情表現に富む歌唱、それに必要最小限に付加された演技の表情などから伝わって来るのである。

 日本人歌手による蝶々さん役は、これまでにも多くの個性的な役柄表現があったが、この「中村恵理の蝶々夫人」も、間違いなく超一流のものだろう。新しいマダム・バタフライの登場を慶びたい。

 そしてまた、今回の共演者たちが実に素晴らしかった。
 福井敬も今日は絶好調で馬力全開、第1幕最後の二重唱は中村恵理の情熱的迫力と拮抗して圧巻の盛り上がりを聴かせた。先頃のトリスタン役が体調不良のため意に満たぬものだっただけに、今日の猛烈パワーの歌唱を聴いて、一安心というところである。

 そして相変わらず見事だったのが、スズキ役の山下牧子だ。この人の安定した歌唱と役柄表現の巧さは、全く群を抜いている。「トリスタンとイゾルデ」のブランゲーネといい、「死の都」のブリギッタといい、ヒーローとヒロインを支えるこのような脇役を演じたら、世界に誇れる存在なのではなかろうか。演奏会形式上演ではあったが、譜面台を前にしての簡単な演技には、蝶々さんへの同情の悲しみをこらえる表情が実に雄弁に表現されていた。

 またもう一人、シャープレスを歌った甲斐栄次郎。彼もこのところ引っ張りだこだが、この「蝶々夫人」のドラマに重みを添える役柄としての存在感は大きい。先頃の「真珠採り」でのズルガや、「サムソンとデリラ」の大司教などとは違い、今日は「おとな」の役なのでかなり抑制された表現が採られており、第3幕ではもう少しピンカートンを圧倒する家父長的な凄味があってもいいのではないかと思ったが、しかしこれは役柄解釈の領域の問題である。

 宮崎県合唱連盟有志で構成されている宮崎国際音楽祭合唱団(浅井隆仁指揮)もなかなかの出来。特に例の「ハミングコーラス」はすこぶる感動的だった。
 広上のプッチーニも、2015年の「トゥーランドット」と同様、素晴らしい。宮崎国際音楽祭管弦楽団は、国内のソリストやコンマスや首席奏者級の奏者を集めた腕利きのオーケストラであり、これも流石に上手い。全管弦楽による最強奏の際の音色はあまり美しいとは言い難いが、広上の劇的な力感にあふれた指揮に応えての、雄弁な表現力と強靭な推進力に富む演奏は、ブリリアントで聴き応えがある。

 音楽祭最終日とあって、ホールは華やいだ雰囲気に満たされる。グッズ売り場は2ヵ所あるが、中央の売り場に、先頃出版されたばかりの、萩谷由喜子著「『蝶々夫人』と日露戦争 大山久子の知られざる生涯」(中央公論新社刊)が並んでいるのが目についた。この本、私もいち早く読ませていただいたが、歴史上のさまざまな物事の不思議な関わりを、よくまあ細かく調べたものだと舌を巻く。日本海海戦のくだりのように、話が拡がり過ぎた感もなくはないが、外交官の妻だった大山久子がプッチーニに日本の音楽素材を提供して行ったとされるエピソードなど、明治の人々の国際的な活動が如何に盛んであったかを再認識させられた次第である。

 休憩2回を含み、6時過ぎ終演。ANA最終便(8時10分、遅れて8時57分フライト)で帰京。
     →モーストリー・クラシック8月号 公演Reviews

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