2020-07

9・23(火)本名徹次指揮ベトナム国立交響楽団

  ハノイ・オペラ・ハウス

 私は、アジアの国にはほとんど行ったことがない。これまでにたった一度、2年前にウランバートル国立歌劇場へオペラを観に行ったことがあるだけだ。
 すべての旅行費用を自分の乏しい財布から捻り出している身では、どうしてもまずオペラやコンサートを聴きに行くことを優先させ、そういうものを聴ける国を選ぶ結果になっていてしまう。――幸いにも今回は、現地で仕事をしている先輩友人の紹介で比較的安価な航空券が入手できたので、このオーケストラを本拠地ハノイで聴いてみることにした次第。ただしそれも現地2泊、機内1泊のとんぼ返りで、観光としては合間を見て歴史軍事博物館や民俗博物館を駆け足で回ったのみである。

 成田からハノイまで約5時間。時差はマイナス2時間。前日JAL便で18:15に発ち、現地時間21:30に入る。ホテル・ニッコーに宿泊。
 一夜明けて朝の街路を眺め、雲霞の如きバイクの大群に驚嘆。右側通行だが、左折の際には早くから反対車線に出て、対向車が来るのも構わず怒涛の如く突っ切る。その間を自転車が巧妙に縫って走る。乗用車やバスも、それらを右に左に避けつつ、猛然と突っ走る。これらの鳴らすホーンは、耳を劈くばかり。この道路を歩行者が横断するのは、至難の業だろう。
 ベトナムには珍しいといわれたほど快晴のこの日、気温36度、湿度70%の肌触りは、湘南の海水浴場といった感。

 ベトナム国立交響楽団の定期演奏会が行なわれている会場は、市の中央の広場にあるオペラハウス。20世紀初頭にベトナムを統治していたフランスが建てたもので、パリのガルニエのミニチュアともいうべき外装と内装を備え、広く豪華なホワイエと馬蹄形の客席(席数660)をもつ本格的な歌劇場である。惜しむらくは専属のオーケストラも歌劇団も存在せず、オペラは数えるほどしか上演されていない。

 しかし、1959年に設立されたこのベトナム国立交響楽団は、2001年から「ミュージック・アドヴァイザー兼指揮者」(「音楽監督」は間違いでした)をつとめる本名徹次のもと、ほぼ85名の正規楽員を擁し、非常に活発な活動を展開している。
 2008年を例にとれば、計11回の定期公演(各2日公演)と、異なる会場での4回の室内楽演奏会および5回の「バロック&クラシック・サイクル」(いずれも各2日公演)などを開催しており、ソリストには堀米ゆず子、村冶佳織、広田智之ら、客演指揮にはピエール=アンドレ・ヴァラド、鈴木秀美らの名も見える。

 本名とこのオーケストラは、今年の「ラ・フォル・ジュルネ」に来日してシューベルトやモーツァルトの交響曲を美しく聴かせているし、4年前の「アジア・オーケストラ・ウィーク」でもショスタコーヴィチの「第5交響曲」などを演奏しているので、耳にされた方も少なくないだろう。4年前の来日時に聴いた時の日記をひっくり返してみたら、「半世紀以上前の日本のオーケストラの水準。弦はある部分では綺麗に鳴るが、細部のアンサンブルはまだこれから」というメモが残っている。

 あれ以降、本名の献身的な努力で、演奏水準はかなり向上してきているように思えるが、本名は絶えず目標を引き上げ、オーケストラがそれに追いつく前に里程標を先へ先へと設定して、冒険を厭わないように見える。
 昨年から定期で開始した「マーラー交響曲サイクル」もその一例であろう。すでに「5番」「10番のアダージョ」「6番」を手がけ、そして今日が「3番」である(来年は「2番」と「7番」、2010年には「4番」と「8番」、マーラー没後100年に当る2011年には「1番」「9番」とのこと)。

 日本やノルウェーからも応援を頼んだ今回の「3番」は、弦は11型編成ながら、ポストホルンや2台のハープほか、総譜指定通りの編成を完備しての演奏が仕上げられていた。 
 細部に関しては言いたいことも山ほどあるけれど、それは措くとして、姿勢を正したくなったのは、フィナーレ後半の壮大な昂揚感にあふれた、堂々たる演奏であった。この厚みのある響きの最後の頂点を聴き終わって、そして――客席に答礼する楽員たちの笑顔に接すれば(美女が多い!)、どんな不満も全部吹き飛んでしまうということになろう。

 協賛支援には日本の企業も多く、トヨタの看板を筆頭に、味の素、ヤマハ、パナソニック、ホテル・ニッコー・ハノイ、アサヒビールなども名を連ねている。
 本名徹次の努力は涙ぐましいほどである。オーケストラの実力向上を祈りたい。

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感動

感動して記事を読ませていただきました。日本の演奏家はまだ東南アジアには貢献できることが一杯あると思います。それを実践しておられる本名さんはじめ皆さんに脱帽の思いです。

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