2021-06

2018・4・5(木)東京・春・音楽祭 ワーグナー:「ローエングリン」

      東京文化会館大ホール  5時

 東京・春・音楽祭の目玉上演ともいうべき、演奏会形式によるワーグナー・シリーズの9回目。この「ローエングリン」は、7年前にいったん予定されながら、あの大震災のため上演が中止されていた企画である。

 指揮はウルフ・シルマー。以前の東京での「フィガロの結婚」や「ばらの騎士」、このシリーズの第1弾「パルジファル」などに於けると同様、速いテンポで、時には素っ気ないほどの勢いで押す指揮だ。だが「ローエングリン」というオペラの音楽の性格上、それは良い方に生きるだろう。少なくとも、しんねりむっつり、持って回ったテンポで長々と演奏されるより遥かにいい。

 おなじみライナー・キュッヒルをゲストコンサートマスターとするNHK交響楽団も、勢いのいい演奏を示した。もっとも、N響にしては、今日の演奏は少々荒っぽく、就中トランペット・セクションには、布告官がエルザに代わって戦う騎士を呼ぶ個所の最後で早く飛び出してしまった(スコアでは2番トランペット)のをはじめ、妙に粗いところが多い。
 一方、ホルンなどの音がまっすぐ客席に来ないのは、反響板の問題もあっただろうと思う。ついでながらバンダは3階客席の正面と左右両翼に配置されていたが、特に正面のバンダはステージへの「はね返り」音を生み出し、「王のファンファーレ」では一つの音符が二つに聞えてしまうなど、甚だ難しいものがあったようだ。

 そんなわけで、多少ガサガサしたローエングリンという感もあったのだが、ステージ前方に並ぶ歌手陣は、なかなか聴き応えがある。
 まず何と言っても、題名役を歌ったクラウス・フローリアン・フォークト。強靭な最強音から、よく声の通るソットヴォ―チェまでを効果的に駆使し、非常に表情の大きなローエングリンを歌う。指揮者との打ち合わせで、かなり自由な表現を行なうことも許されていたのかもしれないが、自らの名を明らかにする個所で、あれほど派手に大見得を切った歌い方をした歌手は聴いたことがない。ここは指揮者シルマーも物々しく大きな矯めをつくっていたので、ニヤリとさせられるような面白い「名乗り」の場面の演奏になった。

 次いでオルトルート役のぺトラ・ラング。フォークトと同様、暗譜で歌い、イメージ的な演技も加えて凄味のある悪役ぶりを披露。流石に先日の歌曲リサイタルとは比較にならぬ、別人のような劇的な歌唱である。
 その他、フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵を歌ったエギルス・シリンス、ハインリヒ王を歌ったアイン・アンガー、王の布告官を歌った甲斐栄次郎も見事。 

 唯一の問題は、エルザを歌ったレジーネ・ハングラーだろう。声はいいのだが、音程に不安定なところが多い。しかも第1幕では「夢を見ているようなエルザ」を異様にリアルに歌ってしまうし、その後のイメージ的な演技(軽い身振り)にも、何かこのドラマにおけるエルザの性格をまるきり理解していないような雰囲気がしばしば見られたのである。
 なお、出番は少ないが、ブラバントの4人の貴族に大槻孝志、高梨英次郎、青山貴、狩野賢一、4人の小姓たちに今野沙知恵、中須美喜、杉山由紀、中山茉莉が出演。合唱は東京オペラ・シンガーズが好演。付記すれば、第2幕での布告官の場面での合唱は珍しくカット無し。ただし第3幕では相変わらず慣習的なカットが行われていた。

 いつも通り映像付だが、担当は今回、田村吾郎に交替した。投映された映像は、やはり概してイメージ的なものにとどまっている。
 30分の休憩2回を含み、上演時間は4時間25分。

コメント

東京に出てきてしまいました。

>この「ローエングリン」は、7年前にいったん予定されながら、あの大震災のため上演が中止されていた企画である。

あれは楽しみにしていたんですよ。アンドリス・ネルソンスの指揮だから。
2011年4月上旬の公演予定でしたね。
今は病気療養中のズビン・メータ/NHK交響楽団の”第9”。で、体をなしたんですよね。あの出来事は事務局に感謝。(ところでウィーンフィルキャンセルしましたね。演奏旅行は、まったく同じ曲目でアンドレアス・オロスコ・エストラーダとダニエル・ハーディングで競わせる。ちょっと恐ろしい人事がウィーンフィルで繰り広げられるこの4月。誰がズビン・メータの後任の定期公演の常連枠に入るのか。末恐ろしいことするウィーン。どう考えてもエストラーダの勝ちでしょう。。。)

さて、クラウス・フロリアン・フォークトとぺトラ・ラング。この二人がいるだけでも安心感抜群。行きたかった2012年4月中旬カスパー・ホルテン新演出のベルリン・ドイツオペラ。あの時の批評もこの二人でほとんど持ち切りだった。
やはりオルトルート/テルラムントの存在感が強くないと面白くない。25年前のギネス・ジョーンズ(別日のジャニス・マーティン)/オスカー・ヒルレブラントのようでないと。
クラウス・フローリアン・フォークト。今トリスタンの声へと熟成させている最中と本人がメディア向けに公言しているから、目指すはペーター・ザイフェルトの路線に向かいたいのか。。だったら、ザイフェルトと同じように”オテロ”が歌えるようになってね。。
エギルス・シリンス。すっかりこの数年間、日本に来てくれてありがとう。伝令使で歌ってほしかった。ついでに。。。
アイン・アンガー。この人が歌うザラストロ。歌わせたら面白いだろうな。。ロシア語も達者だからグレーミン公爵。
甲斐栄次郎さん。ウィーンではマノン・レスコーのレスコー役を楽しませていただきました。もう少し、今度はドイツの劇場へと飛躍してほしいですね。深みのあるジョルジョ・ジェルモンを聴いてみたい。

残念、レジーネ・ハングラー。<<声はいいのだが、音程に不安定なところが多い。>>。クリソテミスも歌っているのだから、もっと積極的なアプローチはできたはず。
ただ、震災がなければ起用されたエルザ役のハイディ・メルトンも同じことは言われてしまっていたかもしれない。

ウルフ・シルマー。東京フィルと新国のオケピットに入ったり。コンサート形式でN響と共演したり。
どんどん、日本に客演してくださいね。大真面目に。
今度、オーケストラ曲が聞きたいです。曲目は、ブラームス(シェーンベルク編曲)ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25。NHKとやってほしいです。
今迷っているんです。ライプツィッヒオペラの”指輪”通し上演行こうかどうか。
天秤にかけているのがアクセル・コーバー/ラインドイツオペラの現在進行中の”指輪”と。


追記 エルザ役

今回のコンサート形式で起用されたレジーネ・ハングラー。7年前に起用される予定だったハイディ・メルトン。

頭の中で、ぼんやり共通項があるのは描いていたんだけど(異論はあるでしょうけど)、共通項は”神々の黄昏”のグートルーネを歌う歌手ということ。
あの役はつかみどころのない存在感/上手に役柄を消化しても決して”ブラヴォー”を云ってくれる人はまずと言っていない。

個人的には(自分はバブル時代の人間だから)考えるエルザ役って、アドリアヌ・ピエチョンカ、エヴァ・ヨハンソン、エミリー・マギーなど。
共通しているのは”マイスタジンガー”のエヴァを消化してエルザ役にくるような歌手。3人はピエチョンカはもう歌手生命の終わりに近いから熟成された”トスカ”。
エヴァ・ヨハンソンはグートルーネも歌ったけど、数年活動歴が見えないと思ったらチューリヒで”エレクトラ”の題名役(ドホナーニ指揮でDVDになっている)、ブリュンヒルデも歌い。メストの指揮でのウィーンの現行演出(スヴェン・エリック=ベヒトルフのものは)、プロダクションの始まる前まではデボラ・ヴォイトが歌うはずだったもの。ところが、”ワルキューレ”神々の黄昏”を降板してエヴァ・ヨハンソンに決まっても、”ジークフリート”ではデボラ・ヴォイトのままだった。で上演月になってニーナ・シュテンメになったのでしょう。
エミリー・マギーだって、新国でダン・エッティンガー指揮の”イドメネオ”のエレットラを歌って、チューリヒでカウフマン/T・ハンプソンの組み合わせの”トスカ”を歌って。最後にイゾルデ役が予定されて降板したでしょう。

古いところだったらビデオ・DVDの世界だけど(オペラに染まってないころ)、サヴァリッシュのDVDなら、グートルーネはリスベート・バルスレフ(1992年2月のケルン歌劇場来日公演でゼンタ歌っていきましたよね)。
バレンボイム/バイロイトのDVDなら、グートルーネはエヴァ・マリア=ブントシュー(1991年10月のベルリンシュターツオーパーでイゾルデのダブルキャストをイングリット・ハウボルトと歌って、ブントシューのほうがNHK教育で放送されたでしょう)。

長く書いてしまたけど、この今回のキャストで、事務局側の誰が仕込んで契約書のサインに導いたのか知らないけど(本当のただの一般聴衆だけど)もうちょっと考えてほしかった。
エヴァを歌い終わっている歌手を起用してほしかった。エヴァを完全に消化している歌手。


*余談
マレク・ヤノフスキの”指輪”だって、常にアルノルド・べズイエンを待機させていたでしょう。”ラインの黄金”の時期に富山に来てたでしょ。で”神々の黄昏”の時は、ランス・ライアンからR・D=スミスでべズイエンになったのでしょ。ランス・ライアン。この歌手は自分の生きる選択肢、自業自得で歌えるのに飛行機で遅刻したりしていることを発端としてグローバルな仕事が来なくなったんでしょ。

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