2019-04

2018・3・4(日)びわ湖ホールプロデュースオペラ「ワルキューレ」2日目

      滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール  2時

 ダブルキャストの2日目は、望月哲也(ジークムント)、田崎尚美(ジークリンデ)、山下浩司(フンディング)、青山貴(ヴォータン)、池田香織(ブリュンヒルデ)、中島郁子(フリッカ)。ワルキューレたちは、基村昌代、小川里美、澤村翔子、小林昌代、岩川亮子、小野和歌子、森季子、平館直子。昨日の組もそうだったが、ワルキューレたちの中には主役を張る人たちも混じっている。

 予想通り、今日は第1幕からオーケストラが快調に飛ばし、鳴り響いた。昨日の演奏は何だったのかと思わせるような、良い出来であった。
 第1幕のあとの休憩時間、われわれワグネリアン・ロビー雀どもも、口をそろえて「昨日よりいいよね」「うん、今日はいい」と盛んに囀る。
 第3幕では、いい演奏でワーグナーを聴いた時に湧き起こる、あの独特の陶酔感も久しぶりに蘇ったのである。「ヴォータンの告別」のシーンでは、父と娘が強く抱きあうタイミングが音楽の動きに対して多少ずれ気味だったけれども━━昨日は見事に合っていた━━舞台構図と併せて、すこぶる感動的であった。知人から聞くところでは、涙を流していた人もいたとのこと。
 沼尻竜典と京都市響、これで昨年の「ラインの黄金」に続いて、今年も評価を確立したことになる。

 歌手陣。
 青山貴のヴォータンを聴くのは、もう何度目か。今や完璧な嵌り役の、立派なヴォータンである。一方、ジークリンデの田崎尚美が、上品で可憐な妹といった感で、いい味を出した。
 そして期待の池田香織は予想に違わず素晴らしく、所謂女傑的でないブリュンヒルデを見事に表現した。第2幕冒頭の「ホ・ヨー・トー・ホー」からして若々しく澄んだ声で魅力充分、フリッカの場面の終りに遠方から響いて来る彼女の声は、初々しい少女戦士の雰囲気に富んでいて、ハッとするほど美しかった。
 ただ、第3幕前半の大勢のワルキューレらとの場面のみ、何故か声が異様に鋭かったのは━━彼女だけではなく、ほぼ全員がだが━━PAでも使っていたのだろうか? PAがどの程度使われているのかなどについては、私は一切承知していないが、第3幕冒頭でのヘルムヴィーゲの最初の声だけが━━昨日も同じ個所でそうだったのだが、入力過剰気味に響いていたのが解せない。これはPAの失敗ではないのか。
 山下浩司、中島郁子らもそれぞれの持ち味を出した。望月哲也も、もちろん力はあるのだが、最近の彼はますますヴィブラートが強くなり、物々しい歌い方になって来ているような気がするのだが・・・・。

 演出と演技は、前日とほとんど変わらない。ダブルキャストとなれば、たいてい、歌手によって少し違いが出るものだが、今回はハンぺ先生の指示が徹底していたのだろうか。目立った大きな違いと言えば、ジークムントが最後にジークリンデに向かって手を差し伸べるという昨日の演技が、今日は見られなかったことくらいかもしれない。

 カーテンコールでは昨日と同様、大拍手とブラヴォ―に交じって、ハンぺ、ギールケらの演出チームに僅かながらブーが飛んだ。このような「保守的な」演出に対しては、異論のあるファンがいても不思議ではない。関西のファンか、それとも東京あたりから来た人によるものか、昨日と同じ観客によるものかどうかは、判らない。が、びわ湖ホールではまだブーイングをする元気のいいファンがいるのにはちょっと安心した。当節、東京では新国立劇場にせよ、東京二期会公演にせよ、ブーイングというものがほとんど聴けなくなっているからである。

 新国立劇場でも、開館初期の何年間かは随分賑やかな雰囲気だったが、オペラ部門のある芸術監督が客席を駆け回り、ブーを飛ばした客をつかまえ、「ブーブー言うのは止めなさい!」と怒鳴りつけたという噂が広まって以降、客席の雰囲気は変わってしまった。同芸術監督は、私が「グランドオペラ」誌でインタヴュ―した際にも、「ブーイングなんて、歌手に対して失礼ですよ」と、憤然たる面持で明言していたくらいだから、その噂も、さもありなんと思われる。もっとも、ブーイングする客がいなくなったのには、他にも理由があるだろうが。

 先日の深作健太演出の「ローエングリン」など━━ああいう演出の場合、もっと反対意見のブーイングが盛大に起こり、ブラヴォーの声と拮抗するくらいの熱気がないものだろうか? 
 私は、ブーイングをすること自体がいいなどと言っているわけではない。
 だが、特に演出の場合には、全員が賛成意見(ブラヴォー)ばかりでは、まるで独裁国家か、戦時中の大政翼賛会のようで、むしろ異常である。こういう調子では、オペラの将来はあまり明るくないだろう。もっと喧々諤々の議論が欲しいのである。

 以前、ラッヘンマンの問題作「マッチ売りの少女」がサントリーホールで初演された際、客席からはブラヴォーの声ばかりが飛んだが、それを聞いたラッヘンマンは「日本の聴衆は本当にこの曲を解ってくれたのだろうか」と不安げに語ったそうである。
 また、ある政治家だったか、誰だったが言ったという名文句がある。「おれは、お前の意見には絶対反対だ。だが、お前がその意見を言える権利と自由は、絶対に守ってやるぞ」。もちろんその「意見」は、口汚い感情的なものでなく、筋の通った理性的なものでなければならないが。
      →別稿 モーストリー・クラシック5月号 公演Reviews

コメント

ブーイングについて
先生の言われる事もわかりますが、ただ単に「目立ちたい」と言う、ある意味で「枠外」なのもあると思います。
今回のびわ湖でのブーイングはその種のように聞きました。
なお、言われるその偉人はヴォルテール(Voltaire)です。

満場一致のブーイング、あるんですよ。
新演出初日。2013年5月 ラインドイツオペラの”タンホイザー”。
2日目以降の公演は、コンツェルタンテ形式になりました。

舞台は、ナチスの強制収容所。兵士が新たに到着したユダヤ人たちを殺したり、ガス室の描写もありましたよ。
調子を悪くしたお客さんも本当にいましたよ。。。

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今回の演出は大変つまらないと感じましたので、ブーイングしようかと思いましたが、80を超えたおじいちゃんにするのも品がないかな?と思い直し、控えました(笑)。
今回のような刺激のない前時代的な演出は、(やりすぎ演出と同様に)ブーイングされても仕方ないと思います。

>だが、特に演出の場合には、全員が賛成意見(ブラヴォー)ばかりでは、まるで独裁国家か、戦時中の大政翼賛会のようで、むしろ異常である。こういう調子では、オペラの将来はあまり明るくないだろう。

チケットを買ってもいない金も払わずに見てる評論家先生がブーイングを焚きつけるなんて、不見識という他ないですね
まるで観客の反応がブラボーとブイーイングの2種類しかないような書き方ですが、観客は拍手をしないという行動もあるわけです
拍手が少ないという反応も、立派な意思表示であり、歌手や出演者にとってはそっちの方が厳しい評価の場合もあり得るでしょう
ブーイングなどというのは非常に下品な行為であり、慎むべき行為だろう
ブーイングは舞台上の人にも失礼だが、我々他の観客にとって不快極まりないわけです
もちろん極端に不快な演出であるとかデタラメな前衛作品とか、歌手があからさまな手抜きをした場合はブーイングもあり得るでしょうし絶対やるなとはいわないけど
歌手が調子が悪いとか金管がしくじったとか、演出が気にいらない程度でブーイングはすべきではない
そういう場合は拍手しないという無言の抗議で我慢しろと思う

>もっと喧々諤々の議論が欲しいのである。

そういう議論は新作か現代の作品でやるべきであって、ワーグナーのように評価の定まった古典でやっても自己満足でしかない
日本の地方が歌劇場が日本人歌手でワーグナーを取りあげる、しかも演出は凡庸を絵に描いたようなハンペ
こんな上演で喧々諤々な議論など起こるわけがない

シーン・・

冷たい拍手か沸かなければよいのです。

パチ.パチ.・・・シーン。 間が抜けますよ👍

先生、お邪魔します。既出のとおり、そもそも議論が巻き起こるようなシロモノではない、というのが正直なところです。付け加えるべきことは何もなし。

ちなみに、ブーイングについては、「嫌なら帰ったらどうですか?」という、マエストロ・バレンボイムの名言があります。

「嫌なら帰ったらどうですか?」。そうするよ。

「嫌なら帰ったらどうですか?」
そうね。自分は帰ったことありますよ。
昔、記憶が正しければ。二期会の”フィデリオ”。若杉弘指揮だったはず。
帰った理由は、つまらなかったから。


2011年7月1日の”アッシジの聖フランチェスコ”(バイエルン州立歌劇場)。 遠くは、1995年2月12日の”エロディアード”(ウィーン国立歌劇儒)などなど。

クマの手で抉ったように帰って行くことはありましたよ。
後者は、ドミンゴ、バルツァ、ポンス、フルラネット、グスタフソン、指揮者がヴィオッティだから皆極力いましたよ。だって豪華すぎる配役だったから。CDにもなったし。

今回は行かなかったけど、ミュンヘンの”シチリアの晩鍾”の新演出。これはたぶん新しい感覚を持ち込んでくるだろうな。。Antú Romero Nunesという35歳の演出家だから。

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