2019-06

2018・3・2(金)下野竜也指揮日本フィルハーモニー交響楽団

      サントリーホール  7時

 スッペの「詩人と農夫」序曲、尹伊桑(ユン・イサン)の「チェロ協奏曲」、マクミランの「イゾベル・ゴーディの告白」、ブルックナーの「弦楽五重奏曲」からの「アダージョ」(スクロヴァチェフスキ編)というプログラム。

 いかにも下野竜也の指揮する演奏会らしいヘンなプロ━━ではない、ユニークで斬新的な選曲と配列だが、実はこれがよく考え抜かれた、一貫性のある、よく出来たプログラミングであることは、聴いてみればすぐ理解できる。

 スッペの序曲集は、下野が最近広響でシリーズとしてやっているもので、それだけに一家言あるのだろう。事実、今日の彼と日本フィルの「詩人と農夫」序曲の演奏を聴くと、序奏冒頭の金管のファンファーレからしてシリアスで堂々としていて立派だし、そのあとのチェロのソロ(辻本玲)が、これまた見事に、きりりと引き締まって美しい。スッペをなめたらいかんぞ━━と言わんばかりの演奏で、まあそのあとの賑やかな部分の方はともかく、少なくともこの序奏に関する限り、スッペの作品に対する偏見を払拭させる力を持った新鮮な演奏だったのである。

 そのチェロのソロが、次の尹伊桑の「チェロ協奏曲」と結びつき、そして曲想も「田園的明るさ」の序曲から「魂の苦悩の叫び」の協奏曲との強烈な対照をつくる、とマエストロ下野は言う。
 協奏曲でのソリストはイタリアの若手ルイジ・ピオヴァノ。尹伊桑の綿密なスコアを正確に弾き、作品との見事な一体化を示した。だがここでも、下野と日本フィルの雄弁かつ多彩な演奏がものを言い、長大な全曲を一瞬の弛みもなく聴かせたのだった

 休憩後の2曲は、さらに圧巻である。
 マクミランの「イゾベル・ゴーディの告白」は、激しい起伏の繰り返しだ。何度も襲って来る、耳を聾せんばかりの大強奏は、「魔女裁判」を題材にしたこの作品を、恐怖感を以って響かせるが、その痙攣的な絶叫の終結のあと、アタッカでブルックナーの深々とした情感に富む「アダージョ」が開始された瞬間の安息感は、筆舌に尽くし難い。「・・・・告白」前半の、弦楽器を中心とした部分(後半で再現されるが)と、ブルックナーの弦楽合奏とが、大きく弧を描くような感をも与える。
 しかも「・・・・告白」の中間でチェロ群が特殊な動きをするという点でも、今日のプログラム全体に共通したある種のモティーフのようなものを連想させるだろう。

 マエストロ下野は、プログラム冊子掲載のインタヴュ―でも、マクミランの作品が好きだ、と語っている。そういえばつい最近も、兵庫芸術文化センター管でマクミランの「ブリタニア」という風変わりな作品を取り上げていた。彼の演奏構築の堅固さと明快さは、この作曲家のコラージュ的な性格の音楽を極めて解り易く聴かせてくれる。

 なお、ピオヴァノは、ソロ・アンコールとして、故国イタリアの「アブルッツォ地方の子守歌」という小品を、自ら静かに歌いながら弾いた。なかなかの温かい雰囲気があった。

 これは、傑出したプログラムであった。下野と、日本フィルの企画担当スタッフとを讃えたい。経済的に苦しい自主運営のオーケストラがこのような企画を試みるという姿勢もまた、称賛されてしかるべきである

コメント

ブラァヴォ!シモーノ!

私は下野さんが一時坊主頭にされたときに並んでツーショットを撮ってもらったこともあるほどの大ファンであり、また、彼のヘンな(褒め言葉と解していただきましょう)音楽への取り組み姿勢に大いに共感する者ですが、今回のプログラムもお見事の一語に尽きるものでした。正直に申し上げて、現代音楽を聴いて感心することは滅多にありません。ただ、今回のように各曲を有機的に関連付けて聞かせられると単品で聴くと辛いだけの曲もふむふむとなんか納得させられてしまいます。その手腕にただただ脱帽です。帰り道、おそらくは現代曲に不慣れであろう老夫婦が(失礼)、「耳にすごくうるさいのになんかよかった。不思議ね。」と言っておられたのが言い得て妙。伝わるのです、やはり。

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