2018-09

2018・2・18(日)新国立劇場 細川俊夫:「松風」

      新国立劇場オペラパレス  3時

 日本初演の3日目(最終日)。
 作品名のクレジットが「細川俊夫/サシャ・ヴァルツ 松風」となっているところがミソ。音楽こそ細川俊夫によるものだが、舞台芸術という面から見ると、サシャ・ヴァルツは単なる「演出と振付」担当という枠を超えた、共同作者という存在にまでなるのだろう。オペラと舞踊とが一体となった新しい作品形式を━━というのは細川が目指したところだし、ヴァルツのほうは「コレオグラフィック・オペラ」という形式を確立した人でもある。それゆえ、このような表現になるのだと思われる。

 舞台演技の大半を占める重要なダンスは、これも「サシャ・ヴァルツ&ゲスツ」が受け持ち、舞台美術はピア・マイヤー・シュリーヴァーと塩田千春、ドラマトゥルグはイルカ・ザイフェルト。
 歌手陣は、「松風」をイルゼ・エーレンス、「村雨」をシャルロッテ・ヘッレカント、「旅の僧」をグリゴリー・シュカルパ、「須磨の浦人」を萩原潤。ピットで歌うヴォーカル・アンサンブルを新国立劇場合唱団。デヴィド・ロバート・コールマンが東京交響楽団を指揮していた。

 それにしてもこれは、実に素晴らしい「音楽と舞台」だ。細川俊夫の音楽、音色、響きを、そのまま視覚化したような舞台である。
 ダンスは激しく、精巧複雑を極めるが、それも登場人物の心理を見事に具現化しているように思う。特に日本的な要素はないけれども、そのイメージは底流にあるように感じられる。姉妹役の2人の歌手は、歌唱と同等にダンスをこなさなくてはならないという至難の役柄だが、これがまた見事で、舌を巻いた。

 ストーリーの概要は━━須磨の浦を訪れた「旅の僧」が、「松風」「村雨」という女の名と詩が記された札のついた1本の松に目を留め、土地の浦人に謂れを訊く。やがてその名の潮汲み女の姉妹が現われ・・・・となり、最後は「僧が目を覚ますと、いつのまにか姉妹も姿を消しており、あとには松を渡る風の音が残るのみだった・・・・」という、いかにも日本的な余韻を残す幕切れになる。能の「隅田川」にも似た幕切れだが、私はこういう余韻にたまらなく惹かれる。

 細川俊夫の音楽も、私は以前から好きだった。「海」に関連した作品を集中的に聴いた時にも、その音楽全体のつくりとともに、「自然」の中に溶暗して行くような終結には特に惹かれたものである。
 この「松風」も、最後に「風鈴」の音だけが微かに残って消えて行くところなど、いかにも彼らしい余韻と余情にあふれたエンディングだ。ドラマには、海岸に砕ける大波の音や風の音、水の音など、効果音も使われているが、細川俊夫の音楽そのものにはそうした現実音は含まれていないものの、しかしそのイメージは常に音楽の中に織り込まれているように感じられる。

 「松風」は今回が日本初演ということになるが、実はもう7年も前、2011年5月にベルギーのモネ劇場で初演されていたものだった。細川俊夫のオペラは、すでに完成されているものは6作(「リアの物語」「斑女」「松風」「大鴉」「海、静かな海」「二人静」)、作曲中のものが1作ある(プログラム冊子による)が、そのいずれもが外国の音楽祭や歌劇場や団体から委嘱されたもので、日本からの委嘱作品は一つも無い、ということだ。このあたり、何かおかしい、という気はしないだろうか?

 だが実は私も、これらの中では、過去には「斑女」と「大鴉」しか聴いていない。今回が、三つ目だ。
 その他の作品、「リアの物語」は3年前の1月、広島で上演されたのを観に行く予定だったのを、風邪をこじらせて名古屋から引き返さざるを得なかった。そして「海、静かな海」に至っては、これも2年前の2月、ハンブルク州立歌劇場での初演を観に行こうとチケットまで買っておきながら、やはりある事情のため土壇場で行けなくなったという経緯がある。いずれも痛恨の極みというほかはない。

 今回、新国立劇場がこの「松風」を上演したというのは、実に意義深いものであり、歓迎されるべきものであった。これは、今シーズンの新国立劇場のラインナップの中でも最も意欲的な、しかも調和の取れた完全な作品といえるかもしれない。

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